エピソードまとめ
□イェルシィ・トゥエルチュ・ハイナジン
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ep.1キミに花があるように
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「トト、トトー」
毛先が少しピンクがかった金髪のツインテールを揺らしながら、騎士学校の制服を着た女子が何かを探すように大声をあげる。
「見っつかんね〜どこ行っちゃったのかな、あの子」
「姫様!ここにおわしたかッ!」
彼女の後ろから杖を着いた老人が現れそう叫んだ。
「ひっ!」
姫と呼ばれた彼女は驚いて身を縮こませた後後ろを振り返った。
「早く源獣タルルハン様の御前に参りますぞ!間もなく"祝路天花の義"!あなた様の旅にタルルハン様の加護と、喜びの花が咲くようにと祈る重大な……」
「大げさ大げさ〜!留学して、聖痕騎士になりに行くだけだよ?」
「"だけ"とはなんですか!あなたは次代のアムル・カガンを担う御方!その自覚を持ちなさい!……心配なのですよ、爺は」
「ありがと、じいじ。心に命じとく。それじゃ、あたし、トトを探さなくっちゃ」
「おや?いないのですか?留学にも同伴されるのでしょうに」
「うん……でも朝から姿が見えなくてさ」
「ぬう……。そういうことであれば、やむをえませんな。今しばし、時間を稼ぎましょう」
「やった!ありがとね、じいじ」
【CHAPTER1 あたしの瞳に映るモノ】
997Y.C. アムル天将領 緑都イザミル
「さあ姫様、トトを探してきて下さいませ。儀式まで時間がありません。早急に頼みますぞ!」
「りょー!ありがとねじいじ!……とりあえず外に出てみよっかな?」
「イェルシィちゃん、どこに行くんですか〜?」
のんびりとした様子でそう声をかけたのは玉座に座ったドレスを着た女性。
「トトがいないの。探しにいかなくちゃ」
「あら〜、もうすぐ儀式なのに困りましたね〜。でもトトを置いていくわけには、いきませんね〜。イェルシィちゃんとトトは、一心同体ですから〜」
「その通り!さっすがお母さん!すぐ見つけてくるから、ちょっとだけ待ってて!」
「気をつけていってらっしゃい〜」
母に見送られてイェルシィは屋敷をでた。
「トトー、トトー。置いてっちゃうよー。あたしと一緒に学校行こっ!」
「おや姫様、今日も元気だねえ」
叫びながら歩いていれば、子供を連れた女性が、そう言って声をかけてきた。
「うい!あたしは元気が取り柄だし♪」
「そうかいそうかい。それはなによりだ。でも今日は儀式の日だと聞いていたけど……家にいなくていいのかい?」
「トトがいなくなっちゃったの。おばさま この辺りで見かけたり……、……してないかー」
「……すまないねえ。トトちゃん探しもいいけど、あまり遠くに行かないよう気を付けるんだよ」
「あはっ。あたしもう子どもじゃないよ!でも……ありがとっ♪」
そうお礼を言ったあとイェルシィはトト探しを再開する。
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〔村内会話 お菓子屋さんの橋の前〕
「あら姫さまじゃない」
「いよっすー!今日もワッフル食べてんの?」
「うふふ、毎日の楽しみだもの。おかげでちょっとばかし太っちゃったけど……。ワッフルを食べる幸せの前じゃ些細なことよね」
「わかる!でも健康には気いつけてね」
「ありがとう、姫さま。そういえば今日が出発ね。こっちのお菓子が恋しくなったら報せてね。そっちに送るからさ」
「えーうれしー!したら向こうのお菓子もこっちに送るね。交換こ♪」
〔村内会話 お菓子屋さん〕
「おや、姫様、忙しそうだね」
「トトを探してるの!ここのワッフル好きだから、いるかなーと思ったんだけど……」
「いないかい?」
「そうみたい……。ホントどこ行っちゃったんだろ?」
「暗くなる前に探してあげないとね。見つかったらまたおいで。ワッフル焼いて待ってるよ」
「ホント!?ありがと〜!」
〔村内会話 村の入口にいる男性〕
「ああ、姫さまもう出立かい?」
「んー、その前にちょっと、やることがあってねー。おじさんはなにしてるの?」
「今日は親父の命日なんだ。親父、ここで旅人に道案内するのが好きだったから。……なんだか懐かしくてさ」
「あ……そっか……」
「おっと、すまねえな。今日は姫さまの晴れの日だってのに。立派な聖痕騎士ってヤツになるんだろ?みんな姫さまの帰りを待ってるよ」
「ありがと!行ってくるよっ」
〔村内会話 老婆〕
「……姫さまの旅立ちは今日だったかえ」
「うん!なんか儀式やるみたい」
「そのようさね。……ここも寂しくなるよ」
「大丈夫!すぐ帰ってくるから!」
「けど……戦場にも行かされるんだろう?そうみたいだねー……。でもあたしってしぶといし!」
「あたしが戻ってくるまでイザミルをよろしく!……って、メルギンにも伝えといてくれる?今日はなんか姿が見えないみたいだから」
「姫さま……ほんに、気を付けてねえ」
〔村内会話 ユッコ〕
「やっほー、ユッコ♪」
「イェルシィじゃん!こんなとこいていいの?今日って例の儀式の日っしょ?」
「んー、そうなんだけど、トトがいなくなっちゃってねー」
「えー、なにそれパリやばいじゃん!あたしも探しとくから急ぎなー。………って思ったけどトト見えねーんだったわ」
「あはは、大丈夫!絶対すぐ探し出すからさっ」
「ならいいけど……つか例のガッコー?行く前にまた顔出してよね。やっぱ別れの挨拶は ちゃんとしときたいし?」
「あはっ、別れだなんてユッコってば大げさ!すぐ帰ってくるし心配すんなって♪」
「……ま、アンタがそういうならいいけどさ。色々頑張んなよー? 一応応援したげるからさ」
〔村内会話 村の広場にいる女の子2人〕
「あ、姫さまだ!」
「姫さまー♪」
「あっ、2人とも〜。今日もカワイイぞっ」
「えへへ、姫さまは何してたのー?」
「トト探し〜」
「トトかー」
「姫さまじゃないと探せないねー」
「でしょでしょー?もーすぐ出発なのにな〜」
「そっか……もうすぐなんだね。……すぐ帰ってくるよね?」
「すぐすぐ!秒で聖旗騎士になるから!お土産たくさん持って帰ってくるね♪」
「……うん!」
〔村中会話 西門前の少年〕
「あれ姫様?こんなとこにいていいのか?儀式の日って今日だよな?」
「キミこそここにいていいの?今日はキミの旅立ちの日でもあるでしょ」
「へえ〜、覚えててくれたのか」
「もっちろん!昔からずっと国の外に出たがってたもんね」
「その話は気恥ずかしいからやめてくれ。……ま、俺も船乗りとして頑張るよ。ずっと憧れてた外の世界を、この目で見届けるんだ」
「ヒューかっこいい!応援してるぞっ!」
「姫様こそ元気で頑張れよ」
〔門を開ける〕
「……んー、この辺にもいないか一。もしかしてお花畑に行っちゃったのかな?」
〔村内会話 お花畑前女の子〕
「あ、姫さま、こんにちは」
「いよっすー。キミはいっつもここにいるねー」
「うん……お花好きだから。姫さまもお花見に来たの?」
「あたしはねトトを探しに来たんだ一」
「トトちゃん……そっかそれなら……、きっとあの時みたいに、お花にまぎれてるんじゃない?」
「あ……!確かにそうかも……!ありがと助かった!」