エピソードまとめ

□ヴァネッサ・モラクス
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ep.1為すべきこと
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「あれは……」

リュシアンが見ている方を見れば建物が立っていた。

「廃墟でしょうか?休憩場所としては悪くなさそうです」

「確かにそろそろ休み時ですねえ」

「獣が棲み着いている可能性もありますが……」

「おお、それは怖いですね。人にとって居心地が良いなら獣もそうでしょうからねえ」

「はい、用心して近付きましょう。なにが潜んでいようとも、私が蹴散らしてみせます」

「頼りにしてますよヴァネッサさん」

2人は真っ直ぐ廃墟に向かった。


「ではここで休憩しましょうか」

そう言ってリュシアンが廃墟の扉を開け外から中を覗き見る。

「見た目よりずっと環境が良いですね」

「よく見ると燃料や保存食まであります」

ヴァネッサはリュシアンの後ろから覗いてそう言う。

「……やはり"当たり"を引けたようですねえ」

そっと、リュシアンはヴァネッサの頬に左手を添えた。

「……任務中ですよ」

「……ついでです。これくらいのことは問題ないでしょう」

その返答にヴァネッサは黙った。

「……いいんですね?」

「なんなりと、あなたの望むままに」

そう言いヴァネッサは右手をリュシアンの手に添え、目をつぶった。

「それでは……。………後方の賊を!」

リュシアンがそう言えば、「承知!」とヴァネッサは双剣を抜き、すぐさま後ろに来ていた盗賊を切り付けた。

「ち、畜生テメエら気付いてやがったか!」

「気付いたというのは正しくありませんね。自分達が通る地域については事前に調べておくのが常識です」

「……狩られていたのはオレ達だったってワケかい」

「ブレイズとして告げる。武器を捨て速やかに降伏せよ!」

「はっ、ブレイズだ?舐めるんじゃあねえよガキが!」





盗賊達を倒す。
「げほっ……、エンブリオ持ちの聖痕騎士が……」

「いえ。先ほども言った通り、私達はまだブレイズです。いずれは謹んで拝命することに なるでしょうけど」

「まさか………これほどとはな。"人間兵器"の化け物め……」

「墓くらいは建ててやろう。……名をなんと記す?

「そんな上等なもの……あるかよ……ハッ……」

「息絶えたか……」



「では、カシュール村へ向かいましょうか。
……休憩はあまりできませんでしたけど」

「……あなたはすべてわかっていて、あそこを休憩場所に選んだのですね?」

「中央の目が届かない場所には、野盗が付き物ですから。本来の任務には入っていませんが、この程度のことであれば私の裁量権の内でしょう」

「……なるほど」

「罪なき人を殺め金品を奪って誇るような者達です。おとなしく従うはずもない。この場で腐った根を絶つのが妥当でしょう」

「ええ、同感です」

「ですが、申し訳ありませんでした。こんなことに付き合わせてしまって」

「……いえ、お気になさらず。元より個人的な誉れは求めておりません。……私はただの剣に過ぎませんから」

「………"剣"ですか」

淡々と答えたヴァネッサをリュシアンは複雑そうな顔をして見つめていた。



「村に着いたら本格的に、任務にあたれそうですね」

「"クリアエッジ"それが今回の作戦名でしたね」

「ええ、連邦辺縁部における、国境線の明確化。それが名の由来だとか」

「……私は命令とあれば、最前線へも喜んで赴くつもりです」

「とても頼もしい申し出ですが…ひとまず 私達の任務は遊撃の任のみですから」

「はい。心得ています」


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998Y.C. 森国シルヴェーア カシュール村

「ようやく到着しましたね。とりあえず部隊長に、ご挨拶に伺いましょうか」


村に到着して直ぐに、正面にある駐屯地へ向かい、部隊長へ挨拶をする。

「君達が派遣のブレイズか道中ご苦労だった。我々がここへ派遣されてから帝国側に動きはないが作戦開始の際は即応してもらいたい」

「了解しました」

「周辺地域の状況についても伺えますか?」

「ああ、地図と書類を渡しておこう」

「ありがとうございます。それと……村の状況は、どうなっているのでしょう?」

「彼らについては気に留める必要はない。この50年に及ぶ戦争で自分達の住む場所が、連邦と帝国のいずれに属するかなど関心もない連中だ事実過去の戦いで支配者は何度も変わっているからな。故に軍は彼らについて関知しない」

「っ……」

話は以上と切り上げて、部隊長は駐屯地のテントの中へと入っていった。

「今後やるべきことについては、作戦を立てるとして、今日は村の宿にも泊まりましょうか」

「そう……ですね……」

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〔村中会話 駐屯地ない連邦兵1〕

「ん?ああ、例のブレイズ派遣って、君達のことか。せっかく来てもらったが今は特段やることはないよ。帝国側にも動きはないから、俺達はここで待機するだけだ」

「……待機の伝達からどれくらい経っているのですか?」

「もう数えるのも忘れちまったが。……2ヶ月くらいかな」

「2ヶ月も……」

「ま、この辺は帝国にとって重要でもない地域だからな。はあ……やることもないし日課の薪割りでもするか」



〔村中会話 駐屯地内連邦兵2〕
「この2ヶ月帝国側の動きはないけど、山野の獣の動きが妙に活性化しているらしい」

「それは……」

「村に攻め込まれたら危険なのでは?」

「大丈夫大丈夫!ただの噂話だし」

「ですが……」

「ブレイズともなりゃ真面目なのはわかるけど、肩の力を抜きなよお二人さん」

「はあ……」

〔村中会話 村長〕
「……おや……はじめまして。私はカシュールの村長を務める、ホッジスという者です。新しく赴任されてきた方ですね?」

「ああ、当地に派遣されたブレイズだ」

「ブレイズ!あの有名な……。なにもない村ですが、ゆっくりしていって下さい。……とはいえ兵隊さんも任務で大変だと思いますが」

「現状そこまで緊迫した状態では、ないようですけどね」

「いえいえ。皆さんとても頑張っておられます。今日はもうお疲れでしょうから、また改めてご挨拶させて下さい」

「お気遣いありがとうございます」



〔村中会話 会話中の女子たち〕
「失礼、そこの方」

「わあっ!な、なに……?」

「いや……服に穴が空いていたから声をかけただけなのだが」

「必要以上に驚かせてしまったようですね」

「そ、そうね……びっくりしたわ。軍人さんが話しかけてくるなんて滅多にないから………って本当に穴開いてる〜!お気に入りだったのに〜!」


〔村中会話 老人〕
「おや君達は……兵隊さんにしてはお若いねえ。それにそちらから話しかけてくるのも珍しい。ここは基地なのか村なのか、わからないくらい不思議な場所になっているだろう?こちらとしては静かに暮らしたいけど……近くに兵隊さんがいれば、なにかあった時、頼れるからね。さほど親しい人はいないけど」



〔村中会話 村内の連邦兵〕
「ここ2ヶ月くらいはうまくやれているよ。今日も暇過ぎて朝から、雲の数を数えてしまった……。正直なんでもいいから仕事が欲しいぜ。……自由な雲を羨ましいと思う日がくるなんてな…」


〔村中会話 おばさん〕
「随分若い兵隊さんだねえ、新入りかい?兵隊さんのテントだらけで物々しい雰囲気だけど、昔からの村の人間はもう慣れっこだよ。
ここは50年の戦争で何度もお上が変わってねえ。その期間もまちまちなもんだから、今はこの村が帝国領なのか連邦領なのか……、正直わからなくなっちまってるんだよね!まあどうでもいいことか!ははははは!」


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2人は村の人の話を聞きいて回った後、宿屋へ向かった。

「…リュシアン。私は……、部隊長自らが己の任地を重要としていないのは問題だと思います」

ヴァネッサはこの村に来てからずっと思っていた事を口に出した。

「……なるほど。あなたがそのように意見するとは珍しいですねえ」

「あっ……。い、いえ、意見などと大層なものではなく……」

「まあ、記録にも残らない非公式発言ですから。兵士達も随分と弛緩していますが、状況的にそうならざるを得えないのでしょう。一応、あのような形でも軍律は守られているようですし」

「…なるほど。最低限の仕事はしている……ということですか。あなたがそう言うのなら、そういうものなのでしょう」

「私がそういうのなら、ですか……」

「リュシアン?」

「……さあ、もう休みましょう。明日も早いですよ、ヴァネッサさん」
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