エピソードまとめ

□ヴァネッサ・モラクス
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ep.1為すべきこと
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【CHAPTER2 わかれみち】
998Y.C. 森国シルヴェーア カシュール村

翌朝、支度を済ませ宿を出れば先にリュシアンも出ていた。

「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」

「はい。普段通り問題なく」

「それは良かった。さて帝国側の動きもない以上、我々の仕事は差し当たって"待機"となりますが。有事の時のために村の外の偵察に行きましょうか。地図と実際の地形を体で覚える……ですか。戦場になる可能性がある場所ですからね。自分の身体感覚で、把握しておくことが大切です。指示が来たら即応すればいいですし。ひとまず行きましょう」

「心得ました」

2人は宿から西側に向かっていく。

「昨日の雲の数は22。今日は14か。今日はなかなかの洗濯日和だな」

在中の兵がのんびりと、空を見上げている前を通って、そこから北の門へ向かった。



998Y.C. 森国シルヴェーア 寂光丘陵

門を開け、村の外に出る。

「そういえば地図をいただいてましたね」

ヴァネッサがそう言えばリュシアンはええ、と頷いて昨日貰った地図を広げたを

「やはり連邦の偵察兵は優秀ですよ。表向きは大漏らさず、きちんと仕上がってます。その成果を自分の目と足で確認するとしましょう」

そう言って先導していくリュシアンの後をヴァネッサはついて行く。

「この辺りは地図通りですね。それどころか咲いている花の種類まで、細かく記されているようです」

「それはさすがに不要な情報なのでは」

「生真面目なのかもしれませんよ?……まあ暇を持て余して、ここまでしているというのも充分考えられますが」

そう言いながら2人は丘を登っていく。

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〔道中会話〕
「そういえば、新入生入学の時期ですね。ヴァネッサさんにとっては初めての後輩ですか」

「そうなります」

「今年はどんな子達が入ってくるのでしょうねえ。リゼット教官の試験に怯えなければいいのですが」

「そこで脱落するようならそれまでのこと。騎士を目指すなら試験突破は当然のことです」

「ふふ、気持ち良いほどに明快だ。実にヴァネッサさんらしい」


〔道中会話〕
「新入生といえば……、ヴァネッサさんがなぜ、騎士を目指しているのか……その理由についてはまだ伺っていませんでしたね」

「理由ですか……?私を育ててくれた師匠は、正しく強い騎士でした。だから……それ以外の生き方を私は知らないのです」

「なるほど……騎士の背を見て、育ったが故ですか。まさに生粋の騎士なのですねえ」

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なだらかな丘登っていくと先にある、鋭く尖った大岩が2つ斜めにぶつかり合いゲートのようになっているの見えた。

「……おや、あんなに先客がいますよ」

リュシアンの言う通り岩の下に小さな影が2つあった。

「おい見ろよ!おもしれえ形の石、たくさんあんぞ!」

「あれは……村の子ども達ですね。挨拶しておきましょう。この辺の地理については我々の先輩ですから」

リュシアンの言葉に頷いて、大岩の元へ向かう。
そこに居たのは10歳に満たない男の子と女の子だった。
リュシアンとヴァネッサはその子たちに近づいて目の前にしゃがんだ。

「こんにちは。ここでなにをしているのですか?」

「あ?……ヘー、珍しいの。兵士が話しかけてくるなんて。だいたいみんなブスッとして口もきかねえのに」

「へぇ、そうなのですか」

「からかってもこっちのこと無視しやがんの。なんか気味悪いよなー」

「ちょ、ちょっとそういうことは……」

男の子より少し小さい女の子がその背に隠れながらちょいちょいと男の子の服の裾を引いた。

「あ?なんだよ」

「えっと……その…そのっ……」

女の子は控えめにチラッとリュシアンの様子を見た。

「……なんでもない……」

「ふむふむ。なるほど」

「あ、あの……おねーちゃんも兵隊さん……なの?」

女の子は男の子の後ろに隠れたまま、今度はチラッとヴァネッサを見た。

「子どもよ。私のことは気にしないで良い」

「ふふっ、彼女は照れ屋さんなんです」

「リュ、リュシアン。そのっ………」

「事実を言ったまでですよ?」

「そ、それはっ……。そうかもしれませんが。しかし、その……」

「ハッ、おもしれー。マジで真っ赤んなってる」

男の子の言うように、ヴァネッサの頬は赤く染まっていた。

「こ、子ども一っ!」

ヴァネッサは ら思わず立ち上がって大きな声を上げる。

「まあまあ、それくらいで。さて、君達はそろそろ村へ帰る時間ですよ」

そう言ってリュシアンは立ち上がった。

「はあ?勝手に決めんなよ。オレ達はまだここで遊んで……」

「いや、それは許可できない。そして、そして………今から決して私達から離れてもいけない」

「は?」

「きゃーっ!」

男の子には意味が分からなかったようだが、女の子の方は直ぐに気づいたようで悲鳴を上げた。

「村の近辺にまで現れるとは、」

獣達がこちらに向かってきていた。

「確かに獣は活発化しているか……」

「こ、怖いいいい……」

リュシアンが冷静に分析する後ろで、女の子が震える

「子ども。大丈夫だ。私達が必ず……守る!」


そう言ってヴァネッサは双剣を構えた。






獣討伐後。
「ふう、片付きましたね。ひとまず安全は確保できたでしょう」

「怪我はないか?」

「ううん……ありがとうおねーちゃん。怖かった……」

「もう大丈夫だ。さあ村に帰る気になっただろう」

「うん……」

「……チッしょーがねーな。もっといい石探したかったのに…。今日のとこはもう帰ってやるよ!あんま遅くなると親父もうるせーし」

「二人だけで帰れるか?」

「あー?帰れるっての!バカにすんなよな!」

「まあ大丈夫でしょう。道中の危険は我々が排除してきましたしね」

「そうですね。くれぐれも気を付けろよ子ども」

村の方へと丘を下っていく子供たちの背を見送った。
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