エピソードまとめ
□ヴァネッサ・モラクス
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ep.1為すべきこと
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「……以上が本作戦"クリア・エッジ"の概要となる。ジルドラ帝国の野放図な拡張主義に対抗するため、本作戦は完遂されなければならない」
デスクに座った兵士がそう告げるは2人の学生。
1人はメガネをかけた黒髪の生真面目そうな女子生徒。もう1人はプラチナブロンドの髪を持つ優男のような見た目の男子生徒。
「……だが、キミ達はまだ若く実戦経験にも乏しい。よって、遊撃の任に就いてもらうことにした」
「なるほど、なるほど」
「派遣先はどことなりましょうか?」
「我が軍の部隊が駐屯しているカシュールという村だ。到着後は別命あるまで待機。……だが、駐留軍に解決困難な事態が生じた時は、率先して救援してもらいたい」
「高い即応性が求められる……ということですね」
「怖気付いたかな?」
「いいえ。困難な任務を成し遂げてこそのブレイズです。ねえ、ヴァネッサさん」
「……リュシアン、あなたがそうあれと望むのであれば、私はそれに応え、剣を振るうまでです」
「……君達の輝かしい戦果に期待する。我ら、源獣とともに!」
「「我ら、源獣とともに!」」
3人は、両手を合わせ、左手の先を少し前にずらす連邦独自の敬礼をした。
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【CHAPTER1 剣の騎士】
998Y.C. 森国シルヴェーア ディランブレ戦傷地帯
「っ……。リュシアン。リュシアーン!」
ヴァネッサは、「…駄目だ」と落胆する。
彼女は1人砂嵐の中をさ迷っていた。
「視界が悪いどころかなにも聞こえない。このような砂嵐如きでリュシアンとはぐれるとは……。不覚まったくの不覚だ。……嘆いている場合ではないな。私達にはカシュール村へ赴く任務がある。早く探して合流しなくては」
とにかく砂嵐の中を真っ直ぐ前に進んでいく。
「……ん。今、なにか……」
「……さん………ヴァネ……さ………」
「リュシアン!」
声のした方へ向かってみる。
「この辺りから聞こえてきたはずだが……」
「……さん!ヴァネッサさん!聞こえますか!」
「あ……。はい!聞こえます!」
「意外に近くにいるようですね」
「今、そちらに向かいます。リュシアンはそこで待っていて下さい!」
そう告げてヴァネッサは砂嵐の中を駆けた。
すると直ぐに見慣れたプラチナブロンドを見つけ声をかけた。
「ヴァネッサさん……、お見事ですよくここがわかりましたね」
「正直ギリギリのところでした。この強風ではお互いの姿どころか、声もかき消されてしまいます」
「そのようですねえ」
「あまり離れないようにして進みましょう」
そう言って2人は、並んで砂嵐の中を歩いていく。
「やれやれ、季節性の天候とはいえこれはたまらない。はぐれないように手をつないでいましょうか?」
「はい手を………手っ……手を!?」
「はは、冗談です」
「あ……あなたという人は……!」
顔を赤くするヴァネッサの様子を見てリュシアンは至極楽しそうに笑っていた。
「……ん?この声は……獣ですね。いかに過酷な環境とて適応する生物はいるものです」
アオーンという鳴き声と共に狼のような見た目の獣─ガルルが飛び出してきた。
「確かに危険な存在です。けれどリュシアン。彼らは過ちを犯しました」
「その通り!よりにもよって、我々を獲物に選んでしまったわけです!」
2人は素早く剣を抜き、通り過ぎ様に獣を切り付けて行った。
「見つけた……!」
奥に進めば、獣の群れが居た。先程倒したのと同じガルルだけでなく、バンスという爬虫類のような獣もいた。
「ここで逃しては他の旅人の脅威となります。すべて平らげますよヴァネッサさん!」
「心得ました!」
すべての獣達を切り伏せ、ヴァネッサは双剣をしまった。
「リュシアン。怪我はありませんか?」
「ええ、そちらも無事のようで良かったです」
そう言って2人は先に進んでいく。
獣を倒した当たりがちょうど天候の境目だったようで、砂嵐が急に晴れた。
「……思い返してみれば、今回の任務もあなたと一緒ですね。前回もさらにその前も……」
「そうですねえ」
「そして毎回軍の人達は、ヴァネッサさんを 私の副官扱いしていますが……」
「それは当然でしょう。あなたはブレイズ筆頭なのですから」
「うーん……それだけではないと思いますよ。あなたは私に次ぐ成績をお持ちですからね」
「私の能力などあなたに比べれば……」
「謙遜する必要はありません事実なのですから。私とあなたならば多少面倒な任務でも、引き受けられるとは考えているのでしょう」
「……光栄です」
「とはいえ毎回同じペアというのも、あなたの息が詰まるでしょう」
「い……あ……そっ…んなことはありませんっ。今回もあなたと行動をともにできることを、私は喜ばしく思っています。私は………あなたの副官である方が能力を発揮できる人間です。あなたの指示は、私の刃に正しさを与えてくれますから」
「買い被り過ぎですよ。しかし……今はありがたく受け入れましょう。行きましょうか、私の副官殿」
「はいっ」
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〔道中会話 採取〕
「この草は……」
「ディランブレ茶葉ですね」
「ええ。お茶にするととてもおいしいんですよ」
「そういえば……以前リュシアンに淹れていただいたものは絶品でした」
「お気に召したなら是非またご馳走させて下さい」
「……いいのですか?」
「もちろん。ティータイムのためにも早く任務を片付けましょう」
「……はい!」