エピソードまとめ
□マクシム・アセルマン
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ep.1 夢まで遠し 我が背丈
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「よしっ!これで終わりだ!」
「嘘、だろ……俺達の門が……」
「さあ、入らせてもらうぞ」
そう言ってマクシムは門をくぐり抜けた。
【CHAPTER4 彼らの居場所】
998Y.C. オズガルド嶺峰国 ヤントベル村
「やはり温泉があったか。だが、とても"村"という景観じゃないな……。ひとまずここを取りまとめている人間を探そう」
温泉の中に、鳥主ハリーオゥに似た石像が立てられており、それを眺めていた老婆がこちらを振り返った
「……見ない顔じゃの新入りか?それにしてはこことは不釣り合いの様相じゃが」
老婆は煌びやかな制服を来ているマクシムに疑念を抱く。
「ま、まあ……ちょっと迷い込んだというか……」
「……そうか。歓迎はせんが追い出しもせん。ここヤントベル村はそういう村じゃ。道がわかったら早いとこ立ち去れ」
「あああ…。そうさせてもらう」
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〔村中会話 子ども〕
「あんたこの村のモンじゃねえな?なんでこんなとこにいんのか知らねえけど金くれよ。全部とは言わねえ。ちょっとでいいからさ」
「……そんな簡単に金を無心するものじゃない。それに今の僕の所持金は、キミと似たようなものだ。水を買う金さえないからな」
「……そこまで貧乏なんて俺よりひどいじゃねえか。水くらいなら分けてやるから本当に必要なら言えよ」
「あ、ああ……どうもありがとう。………なんだか複雑な気持ちだ」
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ヤントベル村の奥へと進んでいると、わらわらと盗賊たちが武器を持って現れた。
「誰だお前は!?どうやって入った!?」
「……見つかったか。だがここで退く僕ではない!我が名はマクシム・アセルマン!ブレイズ筆頭予定の者だ!こう名乗ればわかってもらえるだろう」
「ブレイズ……?」
騎士でもなく、森国シルヴェーア出身ではない者にはピンと来なかったのだろう。盗賊たちは首を傾げる。
「………それになんだ筆頭"予定"って。わざわざ名乗る肩書じゃなくね」
「う、うるさいぞ下郎っ!無礼にもほどがある!」
そう叫びマクシムは盗賊たちに蹴りをお見舞して回った。
「どうやら今のも下っ端だったな。だがどこかに必ず頭がいるはずだ。また襲われないよう、注意しながら探してみよう……」
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〔村中会話 老婆〕
「この温泉はこの村の唯一の自慢じゃ。マナの成分が含まれたお湯は、柔らかくて温かい。肩まで浸かれば少しの間あらゆることを忘れられる。湯気に触れているだけでもいい気分じゃよ」
〔村中会話 盗賊〕
「まったく侵入者なんて面倒だな。村への門を破ってくるなんて……いったいどんな奴だ?………まあ誰だってリーダーが始末してくれるか」
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その後は襲われることなく、村の奥らしき広場にでた。そこには子供達か集まって居て、その中に見覚えのある白髪の少年がいた。
「むむっ、キミはどこかで……」
「っ!あんたは……」
向こうもこちらに気づいたようで声を上げた。
「そうだ。火山道でフランジャルキに襲われていた……ヨアキムだったな」
「……うん」
「……そうかキミもここの住人だったか」
「もしかして侵入者って、あんたのことだったの?」
「……ああ、そうだ」
「なにしに来たんだよ?こんなところ一人で入って来て、リーダーに見つかったらあんた……」
「どうした、ヨアキム」
噂をすればなんとやら、だ。
「リ、リーダー……」
頭に赤い帯を巻いた、目付きも鋭くガタイの良い男がやってきた。
「……親玉のお出ましか。キミがリーダーなのだな?」
「お前が侵入者か」
「こ…こいつ悪い奴じゃないよ。話し合えるんじゃないか?」
「ブレイズ……騎士の卵と話すことなんかなにもねえ」
どうやら、このリーダーは先程までの賊と違い多少の知識はあるようだ。
「こいつらの親玉が戦争したせいで住む場所もなくなった。それなのに……やっと辿り着いたここからも追い出しにかかるつもりか!」
「僕にそのつもりはない。あくまでも部外者だからな。だが略奪行為はやめろ。キミ達の行いはすでに山都の兵士に知れ渡っている。悪行を続ければここを制圧されるのも時間の問題だぞ」
「……俺達がやりたくて、やってるとでも思ってるのか?もういい、とっ捕まえろ!話はそれからだ!」
リーダーが叫ぶと、どこからか盗賊たちが集まってきた。
「なんだと!?このわからず屋一っ!」
致し方なくマクシムも武器をとる。
「なぜわからない!キミ達は自分で自分の首を締めているのだぞ!」
「うるせえ!そんなことは誰だってわかってる!すべては生きるため……残された道がこれしかないんだ。戦争が大好きな野郎には わからないだろうけどなあ!」
周りの盗賊達を蹴散らし、残りはリーダーのみとなった。荒い息をしながらそれでもリーダーは武器を構える。
「はあ……はあ……まだだ……まだやれる……」
「……キミが守りたいものはわかった。だがそれならばなおさら……、僕も譲るわけにはいかん!」
そう言ってマクシムは衝撃創術を放つ。
そうすればリーダーはそれを避ける為に慌てて回避する。そこへ、マクシムは飛び出して回し蹴りをお見舞した。
「う……」
リーダーは後ろに倒れ尻もちを付く。
「……終わりだ」
マクシムはリーダーに狙いを定め、矢を持ち弓の弦を引いた。
「お願い、やめて……!」
女の子が飛び込んできて、リーダーを守るように、その小さな体をめいいっぱい広げた。
「ディーサくん。やはり、ここにいたんたな」
「それ以上、リーダーをいじめないで」
ディーサの目に涙が浮かぶ。
「ここを追い出されたら……私達、もう……行く場所なんて………」
「あああああもうっ!」
マクシムは叫びながら武器を降ろす。
「……かくなるうえは」
腰に両手を置き、マクシムは息を吸った。
「フレデリック!フレデリーック!」
「ははーっ、マクシム様!」
頭を垂れたフレデリックかいつの間にやら傍に控えていた。
「こいつらに……いや。この"村"に、僕の資産をすべてくれてやれ!」
「すべて、ですか?確かに相当な金額となりますが……。一度失えば、立て直しには時間がかかりましょう。おそらく、半年はかなりの節約生活ですぞ?」
フレデリックの言葉に、マクシムはギュッと
拳を握った。その手はプルプルと震えている。
「か、か……構わーんっ!思いっきりやれー!」
マクシムは大きな声でそう叫んだ。
ドサリ、いやドシン、だろうか。大きな音を立てて、大量のガルドが入った大きな箱がいくつも積み重ねられた。
「お、お前……」
「どうだ。これで当面、金の心配はないだろう!食い潰すなり、商売を始めるなり好きにしろっ」
…それと、とマクシムは言葉を続ける。
「もう二度と悪事を働かないと違うなら、寛大な処置をして欲しいと上に口効きくらいはできる。けど、そこまでだ。その先は僕の手に余る!……今はまだ、な」
「恩に着る……」
そう言ってリーダーが頭を下げる。
「礼など必要ない。僕が好きでやったことだ。だが、次にここに来る時は、温泉に入らせてくれ。疲れを癒すために……」