エピソードまとめ
□マクシム・アセルマン
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ep.1 夢まで遠し 我が背丈
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【CHAPTER2 異なる旅路】
998Y.C. オズガルド嶺峰国 ゼヴォロン火山道
「……ようやくまで来ましたね」
イーディス騎士学校のある森都ルディロームから共に歩いて来たリュシアンがそう呟いた。
「長い道中だったがここもまた難所だな……。荷運び程度のこと、僕一人でもと思ったが、この山道のことをすっかり忘れていた。同行者が必要な理由がわかるというものだ」
そう言って2人は、火山道を登っていく。
「くっ……!やはりここを歩くのはなかなか堪えるな……」
「そうですねえ。荷物も思ったより重いですし、なによりもこの暑さ……。なかなか厳しいものがありますねえ」
「だが弱音を吐いてはいられないぞ。先ほどなんか、行商人にやすやすと追い越されてしまった……。なんとも格好がつかないな!」
「いいじゃないですか。のんびり風景を楽しめますよ」
「またそうやって、人畜無害な昼行灯を装うのだな。我がライバルよ。だが僕は知っている!」
マクシムがリュシアンを指指すと彼は困ったように笑みを浮かべた。
「なぜなら幾度も決闘で敗れたからな!僕を負かすキミは尋常ではない!……でなければ、僕の立つ瀬がない……」
「はあ……買い被りですよ、本当に」
「はっはっはっ、そういうことにしてやるさ!」
「そういえば、フレデリックさんはどうしたんですか?学校にいらっしゃるのは見届けたのですが」
「彼はあくまでも僕の世話係だ。危険には巻き込めん」
「なるほど……少し残念ですねえ」
「フレデリックに用事でもあったのか?」
「用事というほどのものでもないのですが、彼の淹れる紅茶は絶品です。また味わえる機会が来たと楽しみにしていたんですよ」
「ふむ。伝えておこう。まあすぐにまた飲む機会は来るさ」
「フレデリックさんって働き者ですよねえ。神出鬼没でどこにでも現れますし、なんとも不思議な方です」
「この僕の世話係として 鍛えられているから当然だな!そのうえ忠実にして有能。僕より有能かもな!はっはっは」
「かもしれませんねえ」
「即答!?そこは僕のことを持ち上げときなさいよね」
そんな会話をしながら進んでいくが、厳しい傾斜の山道はまだまだ続いている。
「はあ……まだ着かないのか……」
「確かこの先に橋があったはずです。それが山都に近付いて来た合図だったかと」
「そうか……干上がる前に辿り着きたいものだな」
「ではもしマクシムさんが干上がったら……。丸めてポケットに入れて運んであげますね」
「さらっと怖いこと言うねキミ!」
しばらく進んでいくと、ようやく吊り橋が見えたきた。
「おっ、これが例の橋か!」
「ですが……どうやら先客がいるようです」
リュシアンの言うように、吊り橋の手前に数名の男達が立っている。
「おーっと待ちな!通行料を払ってもらおうか」
近寄れば彼らは吊り橋を封鎖してそう言った。
「橋に陣取るごろつき。……なんとも定番ですねえ」
「そのみすぼらしい格好……盗賊か」
「通行料ということは、あなたはドルガノーアの関係者なのですか?」
「はっ、ドルガノーアなんざ関係ねえ。俺たちゃ、その先の……」
「先……?」
「……まあどうだっていい。痛い目にあいたくなければ、さっさと金を出しな!」
そう言って盗賊達は脅すように剣を抜いた。
「……マクシムさん」
「ああ!もちろん放ってはおけまい。お仕置きの時間だな!」
そう言ってリュシアンは長剣を抜き、マクシムは弓を構えた。
「はっ…、できるもんならやってみな!ほらほら来いよ!」
「強気だな……」
「その威勢がいつまで持つか見物ですねえ」
ブレイズである2人に叶うわけもなく、盗賊達は倒されていった。どこに潜んでいたのか、数だけは多かったが。
「なかなかしぶとかったですね」
「ええい、厄介な連中だ!山都に着いたら、荷物を渡しがてら報告せねば!」
邪魔者もいなくなったことで2人はさっさと橋を渡っていく。
「しかし……少し気になりますねえ」
「ん?なにがだ?」
「先ほどの盗賊です。ドルガノーアの関係者かと聞いたら"その先の"と言っていましたよね」
「…ああ。ドルガノーアはオズガルドの首府だ。どこからが来ていても、おかしくはないだろう?」
「そうなのですが、あの街の先にある火山道は、人が踏み入れられないほど多くの獣の棲家になっていると聞いたことがあります。そんな場所に人の暮らす地があるのかなと」
「た、確かに言われてみれば……」
「まあ、もっと先のことを言っていたのかもしれませんし。考え過ぎかもしれませんね」
「もうすぐ本当に、ドルガノーアに着きそうです」
「ああ、ようやくか。まったく盗賊どもめただでさえヘトヘトなのに余計疲れてしまったぞ。……そういえば荷物を引き渡すのって誰だったっけ……」
「駐屯所にいる兵長ですよ」
「そ、そうだったそうだった。決して忘れていたわけじゃないからな!ただこの暑さが僕の体力と思考を根こそぎ奪って……」
「あ、珍しい野草がありますよ、マクシムさん」
「僕の話聞いてるッ!?」
そんなやりとりをしつつ進めば、ドルガノーアを囲う城壁が見えて来た。だが、その門のまえに獣が何やら群がっている。
「おや?」
リュシアンが目をこらす。
「あそこ……誰か襲われていませんか?」
「た、助けて〜!!」
子どもの声だった。フランジャやフランジャルキと言った大きい獣に囲まれて居て、ハッキリとした姿は見えない。
「そこまでだ、フランジャルキ!」
マクシムが大きな声で言えば、その声につられて獣達は、子どもの方から2人の方へと標的を移した。
「速やかに駆除しましょう」
「言われるまでもない!そっちは任せたぞっリュシアン!」
獣討伐後。
「どうだフランジャルキめ!はっはっはっ!」
マクシムは高笑いをした後、そうだったと言うように襲われていた子どもの本に駆け寄った。
「リュシアン少年の手当を!」
「噛まれたりしていませんか?」
2人はしゃがんで子どもの様子を見る。
「それは平気……」
「噛み傷も擦り傷も骨折も虫歯もない……。問題なさそうだな、少年!」
「う、うん……」
マクシムの勢いに少年は少し引き気味だった。
「おうちはどこですか?送っていきますよ」
「いいよ。自分で"村"に帰る」
「……そうですか。ではお気を付けて」
「そうだ、少年。名を聞いておこう」
「……ヨアキム」
「ヨアキムよ、いつかまた会おう。困ったことがあれば呼ぶがいい。マクシム・アセルマンの名を!」
「……ふーん」
「リアクション薄いなキミ!」