エピソードまとめ

□マクシム・アセルマン
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ep.1 夢まで遠し 我が背丈
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進むと源獣アグライアの姿が近づいてくるのと共に、塀が見えてきた。

「おっ、やっと街が見えてきたぞ。いつも通ってる道なのに今日はなんだか長く感じるな……」

獣避けの柵を通り抜け、広い場所にでる。
草木が風に揺れるその場所をのんびりと歩いて進むマクシムは、ん?となにかの気配を感じ足を止めた。

「うわっ!?な、なんだ…!?」

思わず片足を上げ身を守るように構えたマクシムの前に、飛び落ちてきたのはリスに似た小動物──エキュルだった。

「……なんだ。まだ子どもじゃないか」

きゅいきゅいと小さく鳴くエキュルを見て、マクシムはポケットに手を入れる。

「ほら、食べるか?」

先程、小腹が空いた時ようにともぎ取っていたりんごをエキュルの前にそっと置けば、エキュルは一瞬小首を傾げるような仕草をした後、りんごに飛びついた。

「妙にがっつくなあ。お腹が減ってるのか?」

優しい声色でそう言いながら、エキュルがりんごを食べるのを眺めていると、急にエキュルがりんごを置いて走り出した。その瞬間グラグラと当たりが揺れた。

「な、なんだ?地震……か…?」

じっ、と揺れが収まるのを待つマクシムの元に、うわああああっ!と男の声が聞こえた。


「むむっ!助けを求める声か!」

そう思いマクシムは声の方を振り返った。

「なんだ、あれはーっ!」

マクシムは驚いて叫んだ。
そこにはゴウリドンという猪のような獣に追われた学生服の男子が走っていた。

「せ、先輩は……どうか……逃げて………」

そう叫んだ男子の学生服を、ゴウリドンは容赦なくその大きな牙で引っ掛け下から上に大きく放り投げた。

「キミーっ!」

キラン、と星になった学生にマクシムは手を伸ばした。
それから、ゴウリドンの方を振り返り、弓を握った。

「あの制服……うちの学校の物だ。よくも……よくも僕の後輩を!許さんぞ、ゴウリドン!僕の矢の餌食にしてやる!」




獣討伐後。
「よしっ。倒した……倒したぞ!しかし……」

そう言ってマクシムは飛ばされて落ちた男子生徒が倒れていた所に駆け寄る。

「くっ……。もう少し早く救えていれば。安らかに眠れ。我が後輩」

「あ、あの……」

祈るマクシムにはその声は聞こえなかったよう。

「偉大なる源獣よ。彼の魂を楽土へとお導き下さい……」

「僕、死んでないですけど〜!」

「……え」

身体は動かないようだか、目を開けて口を動かす彼を見て、マクシムは目をクリクリとさせた。

「えーっ!?キミ、生きてたの?」

「はあ、まあ、なんとか。でも、足が動きません……」

上空にほおり投げられ、地面に叩きつけられたのだ。無理もない。

「……まあ、生きててなによりだ。僕が学校までおぶってやろう。それにしても疲れた……。早く帰って休みたいものだな」


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998Y.C. 森国シルヴェーア イーディス騎士学校


「よし、彼も無事送り届けたし一安心だな。ふう……やっと一息つけるぞ。フレデリーック!」

怪我をした男子生徒を医務室に送り届けた後、マクシムは自身の執事の名を叫んだ。
すると、フレデリックはどこからともなく現れて、頭を垂れた。

「おかえりなさいませ!お疲れさまでございましたな」

「ああ、もうヘトヘトだ蜜入りの紅茶を……」

そこまで言いかけて、マクシムは思い出した。

「……肝心なことを忘れていた……。任務の報告をしなければ。僕はこのまま校長室に向かう」

「承知いたしました!」

「校長室は一番奥の部屋だったな。もうすぐそこだ……手早く済ませよう」




〔もう一度フレデリックに話しかける〕
「おや。校長室に向かうのでは、ないのですかな?ああもしや……任務を失敗なされて、報告を恐れていらっしゃるのでは……」

「ば、馬鹿をいうなフレデリック!薬草採取如きの地味な任務、僕が失敗するはずないだろう!」

「ふふふ。たとえ地味でも大切なお役目というのはございますよ。マクシム様は、それを立派に務め上げる方だと信じております」

「……まったく……」

「さあ、いってらっしゃいませ」


〔廊下にいる同級生〕
「はあ……忙しいわ。もうすぐ新入生が入ってくるじゃない?先生にその手続きの一部を、手伝えって言われているの。だからもう書類仕事が多くて多くて……。確かアセルマンくんも選抜試験、手伝うのよね。そちらも大変そうだけど、お互い頑張りましょう」

〔校長の扉の横ににいる生徒〕
「あ、アセルマン先輩。……校長室ですか?嫌だなあ目の前にあるじゃないですか」



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「…なるほど、ゴウリドン退治。それは大変でしたね」

任務を報告すれば、卓を挟んだ向かいに座った恰幅のよく、左右に伸びその端がくるんと丸まった髭と前髪を持つ男性──パトリシア校長がそう言った。

「ブレイズの面目躍如といったところだな」

卓の横でそう言ったのは、自分の教官であるリゼット・レニエ。

「このマクシム・アセルマンには容易いことです。今また、アセルマン家の歴史に輝かしい1ページが……」

「ああ、もう十分だ」

語り出したマクシムをリゼットが慣れた様子でスッパリと切る。

「次の話に映らねばならん。校長、お願いいたします」

「帰り着いてそうそうですが、あなたにお願いしたい任務があるのです」

「ま、また!?」

マクシムが思わずそう言えば、リゼットの鋭い目がギロリとマクシムを射抜いた。

「ふむ。ブレイズの一員らしからぬ応答だな」

「あ、いえ、そのー。これはですね……」

マクシムは慌てて言葉を取り繕うとした。

「無論。光栄であります!」

「では、任務の内容を説明させていただきましょう。ちなみに同行者は………」








校長から任務の話を聞き終わり、部屋を出ればフレデリックが控えていた。

「聞こえていたか、フレデリック」

「僭越ながら。次の任地はオズカルドというわけですな」

「ああ。とある重要な荷物を山都まで届ける任務を拝命した。しかも、同行者がいる……。あのリュシアン・デュフォールだ!」

「心強いお仲間ですな」

「仲間?ふん、彼は宿命のライバルだ。だが1人で運ぶには難儀な荷物と言うからには仕方ない。この荷運び。リュシアンよりも上手くやり遂げてみせよう!」

「立派なお覚悟です」

「出発は明後日の朝だ。準備をよろしく頼むぞ……」

マクシムは欠伸を噛み締めながらそう告げる。

「僕はひとまず風呂……いや食事……ふわあ……。むぅ、どっと疲れが……。今度はせめて、良い夢みるぞ……」
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