エピソードまとめ

□マクシム・アセルマン
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ep.2 恋をしたって本当ですか?
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「今『コトロマ』が、アツイ!」

イーディス騎士学校の食堂で、そう叫んだ、金髪褐色の女子生徒─イェルシィがテーブルを叩き立ちあがった。

「熱いですね!」

同じテーブルについた、青髪の女子生徒─セリアが強く同意するのを見て、彼女の対角線上に座った、ピスタチオグリーンの髪色の上に帽子を被った男子生徒─マクシムが首を傾げるのだった。

「こと、ろ……なに?」

「イェルシィとセリアが揃って愛好している小説の話です」

マクシムの隣、セリアの正面に座った黒髪でメガネの女子生徒─ヴァネッサがそう答える。

「題名は『コートリー・ロマンス』。『コトロマ』はその愛称です」

「コートリー……つまり、宮廷風!そのジャンルなら知ってるぞ。騎士が貴婦人に、愛を捧げる姿を描いた物語!」

自分でも知っているジャンルでマクシムは声高らからに説明を続けた。

「しかし……、随分と古典的な物を読んでいるんだな」

「今、宮廷恋愛小説が何度目かのブームなんですよ!」

イェルシィはそう熱く語る。

「コトロマは、その火付け役になった、大人気シリーズなんです!」

セリアがそう教えてくれて、流行りものに詳しくなかったマクシムはガクと首を下げた。

「し、知らなかった……」

「……さて時間だ、行くとしようか」

項垂れるマクシムの横で、ヴァネッサがそう言って立ち上がる。

「マクシムさん、失礼します!」

そう言ってセリアも立ち上がり、イェルシィ、ヴァネッサと三人で食堂を出ていってしまう。

「な、なにごと!?」

放課後で、もう授業はないはずだし、ブレイズとして任務が入っている様子でもない……。

「あー、本屋ですよ。新刊が入荷する時間なんです」

不思議がるマクシムに彼の前に座っていた長い赤毛の男子生徒─レオがそう教えてくれる。

「予約してても、やっぱすぐに受け取りたいみたいで」

「なるほど……。本当にそのシリーズは女性陣の話題の的なのだな!」

「いやー……、女の子だけじゃないですけどね」

そう言って、レオもスッと席を立ち上がる。

「まさか、キミも!?」

驚くマクシムを前に、レオは頷く。

「はい。セリアに勧められてハマって……。それじゃ、失礼しまーす!」

そう言ってレオも足早に食堂を出ていってしまう。

残されたマクシムは、ひとり、テーブルの上に肘をつき、手の上に顎を乗せる。


「ふん、小説ねえ……。そんなに夢中になれるものかな」

ぽつり、とそう呟いた後、マクシムは席から立ち上がる。そして……、

「……フレデリーック!」

大きな声で、世話係の執事を呼ぶのであった。

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【CHAPTER1 花はそこにありて】
998Y.C. 聖領アルコニス ゴンドラン聖伯邸



「マッキ先輩、大丈夫です〜?」

大きく煌びやかな邸宅のロビーで、イェルシィが心配そうにマクシムへ声をかける。

「ううむ、大事ない……」

少し疲れた様子でマクシムはそう答える。

「フレデリックさんに手配してもらったコトロマ12冊。徹夜して全部読むなんて……。マッキ先輩も素敵なロマンスに憧れちゃったり〜?」

「し、しません!しませんよキミッ!」

イェルシィがからかうように言うと、マクシムは慌てたようにそう答えた。

「我が名はマクシム!アセルマン家の騎士!愛とか恋とか言い出したりしませーん!」

「えー、相変わらずおカタいなあ」

「そんなことより今日は、聖騎士団主催のパーティ。父上も兄上も来られず僕が代理だ。社交界の方々に挨拶しなくては!」

そう言ってマクシムは話題を変える?

「そーですね。あたしもちょっとお話ししてこよーっと!」

こう見えても、アムル天将領を治める巫女王の娘である彼女も、母の代理としてこの場に来ているので、挨拶まわりをするのに離れていった。

「さすがは聖頭の邸宅……なんという華やかな場だ……。い、いや、気圧されまいぞ。アセルマン家の者として堂々と挨拶回りをせねばな!」

そう意気込んで、マクシムは邸宅を歩き始めるのだった。


〔邸宅内会話 左階段中腹 聖痕騎士〕
「お初にお目にかかります!僕はアセルマン家の者で……」

「おお、それはそれは!…ん?御子息のジョフレイ殿は、もっと年長だったような……?」

「あ、ジョフレイは兄です。僕は弟のマクシムと申します」

「ふむ。次男がいたとは初耳……。これは失礼した!父君や兄君に負けぬよう努力召されよ!」

「は、はいっ!」

「父上は僕のことを話題にも出さないか……。もっと頑張ろう!」


〔邸宅内会話 2階階段手前 婦人〕
「こういった機会がなければ、アルコニスには来ないのですが。やはり法王様のおわす聖領ですわね。土地も広大ですが品格が違います。同じ社交の場でも緊張してしまいますわ」

〔邸宅内会話 2階 イェルシィを見つめる二人〕
「なあ騎士学校の彼女、とても良い感じじゃないか?

「騒がし過ぎると思うがね。……まあ一緒に出かけるのは楽しそうだが」

〔邸宅内会話 2階 イェルシィと婦人〕
「マジですか!?うわー、見たいですっ!」

「ふふふ。それでは来週末いかが?私の別荘にご招待するわ」

「いいんですか!?喜んでー!」


「イェルシィくん上手くやっているようだな。さすがはアムル天将領の姫君……か。今まで忘れてたけど」


〔邸宅内会話 ダンスホール前 給仕係〕※ミナマダラのポワレ トリュフソースがけのレシピ
「今日のメインディッシュは、ミナザマダラのポワレ、トリュフソースがけでございます」

「ほう!なんとも美味そうだな!」

「厳選した食材を確かなシェフが仕上げました。舌の肥えた貴族の方々でも、ご満足いただけると思いますよ」

「さすがは聖騎士団主催のパーティーだな……」


〔邸宅内会話 絵画を見るリュシアンと老人〕
「……以上が、後期フィガロ派の絵画全般に抱く私の所感です」

「ふむ。若い割に美の見識は、それなりにあるようじゃな。確かに彼らは当時の技法の突破者ではあった。同時に……」

「新たなテーゼの提唱者とは、なりえなかった……ですね」

「しかりじゃ、若造!ふん。久々に面白いぞ」


「なんか難しそうな話をしているな……話しかけるのはやめておこう……」
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