エピソードまとめ

□マクシム・アセルマン
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ep.1 夢まで遠し 我が背丈
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「てえいっ!」

「ううっ!や〜ら〜れ〜た〜」

ずいぶんとデォルメされクレヨンで描いたようなリュシアンが、ぐるぐると空と飛んで行った。

「そこまで!勝者、マクシム・アセルマン!」

リュシアンと同じようにデフォルメされたリゼットがそう宣言をする。

「す、すごいぞっ!ブレイズ筆頭を倒すなんて!」

「マクシム・アセルマン……。彼こそ真のブレイズ筆頭だ!」

顔も分からない黒い群衆たちがそう声を上げた。

「見事ですね、マクシムさん。私の完敗です」

膝と両手を着き、四つん這いになる、そんなリュシアンに、そのままの等身のやけにキラキラしたマクシムが手を差し伸べた。

「リュシアン、キミがいたからこそ、僕はここまで強くなれたんだ」

「ううっ、美しい友情!」

デフォルメされたリゼットはそう言って涙を流した。

「私の素晴らしい教え子たち〜!」

「よくやった。我が息子よ」

今度はマクシムと同じ髪色で聖領アルコニスの伝統的な衣装に身を包んだ、
等身大の青年と恰幅のいい男性が居た。

「ち、父上…!兄上!」

「強くなったなあ。お前は私の誇りだ」

「…はいっ!ありがとうございます!マクシム・アセルマン、これからも精進いたしまーす!」

「「「マクシム・アセルマン!マクシム・アセルマン!アセルマン家の誇り!マクシム・ザ・グレート!見ろ、救世主の誕生だ!ワッショイ、ワッショイ!」」」

そこからはマクシムコールが続いて……



「坊っちゃま、朝でございますよ」

立派な髭を持った燕尾服の老人がそう声を掛ける。

「マクシム坊っちゃま!」

「そ〜れ、ワッショ〜イ……ん?」

ベンチの上に寝そべり顔の上に帽子を置いていた彼は、ゆっくりと身体を起こした。

「夢、か……?」

「おはようございます。いい夢でもご覧になりましたか?」

「ま、まあな……」

身体を完全に起こしたマクシムは、帽子をきちんと頭の上に載せ直した。

「では、爽やかな香気のハーブティーを淹れましょう」

「ああ、頼む。……蜜はたっぷりめでな」

そう言ってマクシムは人差し指を突き出した。

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【CHAPTER1 いとも小さき勲章】

998Y.C 森国シルヴェーア キトルール草原

「よしっ、今日も無事任務を終えられたな!これで校長からの評判も急上昇…………と言いたいところだが、地味過ぎるんだよなあ〜!」

マクシムは大きな独り言を言いながらキトルール草原を進んでいく。

「僕はブレイズ………エリートクラスの生徒だぞ?しかも、かの高名なるアセルマン家の次男だ。それがただの薬草採取……草むしりの任務とはな!もっとこう、華のある……例えば帝国の将帥と一騎討ちとか!そういう行ないがだな、僕には相応しいと思うのだよ!」

はあ………とマクシムはため息を吐く。

「兄上に知られたらバカにされる……。……とはいえ地味でも任務は任務だ。アセルマン家の名誉にかけて成果を報告せねばな」

前を向き直し、マクシムは進んでいく。


「今日は任務がなければ、リュシアンに決闘を挑んでやったのに。三日前にも敗れたばかりだが、アセルマン家の者は不屈なのだ!任務完了を報告したら、改めて果たし状を突き付けに行くとしよう。………首を洗って待っていたまえ、我がライバルよ!」

「リュシアンと言えば彼も不在がちだが、僕のように任務をこなしているのだろうか。……薬草採取の任務を……?いや、さすがにそれはないブレイズ筆頭だぞ。そんな些末な任務より戦線の一端を…………いいや!些末なんかではない!この薬草は少々厄介な場所にあったのだ。故に僕はリュシアンにはできないことを頼まれた。そういうこと……そういうことなのだ!」

進んだ道の先に果樹が生えていた。

「おっ、リンゴがなっているぞ。小腹を満たすのにちょうど良さそうだな」

そう言ってマクシムは樹からリンゴを一つもぎ取ってポケットにしまってから、また先を進んでいく。

「なんだか、今日は森が騒がしいな。獣の数もいつもより多い気がする……。……もしも大群で出てきたらどうしよう」

草原に居る獣達を見て不安になったマクシムは自らの頭を振った。

「いいや、僕はブレイズ!ブレイズなんだ!そんなことを恐れていては、アセルマンの名が廃る!オタオタの大群だろうと、ワービーの大群だろうと、この僕にかかれば一網打尽だ!……そのはずだ!できるはずだ。きっと……!」

そう言って自分で自分を鼓舞した。
そのすぐあと、広い場所に出たかと思えば、そこにオタオタの大群とワービーの大群とウリドンの大群が現れた。

「うわああっ!?いっぱい出たー!?」

慌ててマクシムは飛び退き、それから弓を構えた。

「よ、よかろう!どんなに数が多くとも、アセルマンの名にかけて、お前を……、お前達を……倒おおおおーす!」

そう叫んでマクシムは矢を放った。




「はあはあ……これで終わりか」

全ての獣を倒した後、マクシムは荒くなった息を整える。

「ま、まあ、そんなに大したことなかったな!正直薬草の採取よりも、獣の大群を倒すことの方が大変だったな……」

そう言いながら先に進もうとして動かし始めていた足を、ふと、マクシムは止めた。

「……ん。待てよ。報告するまでが任務と考えれば、今の獣討伐もまたその一環……とすればこれはなかなか手応えのあった任務といえる。……うむ。これなら父上と兄上も納得して下さるだろう。さらには校長にもよくやったと褒められ、これまでに積み上げた数多き善行も功を奏し、ブレイズ筆頭の座がこの僕に……。ハッ!も、もしや……昨日見た夢は神の啓示だったのか!?」

にまにまと口角をあげるマクシムの先に、また樹が生えていて、マクシムはその樹を揺らしてみた。

「ん?なんか落ちてきたな……って。ひえっ!ワービーの巣じゃないか!」

飛び退いた後、落ちた巣をマクシムはじっと見つめた。

「……ああでも、中はもぬけの殻か」

良かった……とマクシムは一息ついた。

「ということは、甘い蜜が取り放題……。あれをフレデリックの紅茶いれると最高なんだよなあ。ああ……想像したら飲みたくなってきた……。早く学校に戻ろう」

そう言って再び騎士学校へ向かって足を進めた。



〔道中台詞 入学式の話〕
「そういえばもうすぐ入学式か。今年はブレイズ選抜試験の審判も任されているし、どんな後輩が入ってくるのか楽しみだな。先輩としてしっかりと後輩の教育をしなくては!……でも、ヴァネッサくんみたいな子が入ってきたら、僕が教えること……なさそうだよなあ……」


〔道中台詞 薬草〕
「そういえば、例の薬草、ちょっと採ってきすぎたかもしれないな……。5束で事足りるものを、張り切って10束も持ち帰ってしまった。さすがにこんなにいらないよなあ……。僕の部屋にもまだストックはあるし。…?そうだ。イェルシィくんにわけてあげよう!草花が好きだと言っていたし、いざとなれば 治癒にも使える!うむ。我ながらいい贈り物だ!」
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