エピソードまとめ
□マクシム・アセルマン
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ep.1 夢まで遠し 我が背丈
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998Y.C. オズガルド嶺峰国 ゼヴォロン火山道
「ドルガノーアに来た道より暑いな……。やはり上の方に登って来たからだろうか。はあ……帰りさえ我慢すれば、もうこんな道、通ることもなかったはずなのに。さらに奥地まで踏み込むなんて、僕はいったいなにをしてるんだ……」
自分の行いに自分自身が疑問を持ちながらマクシムは火山道を登っていく。
「暑さのせいか喉が乾いてきたぞ……。屋台で水をもらえばよかったな」
そう言った後に思い返して、あっ、と呟く。
「そんな金もないんだった……。くうっ……今月の小遣い……。半年前からコツコツ貯め続けてやっと今月、念願の最高級枕を買うつもりだったのに。ああ……至高の睡眠が遠のいてゆく……」
そうボヤいた後、マクシムはフルフルと頭を振るった。
「……もう考えるのはやめだ。なくなったものに固執していても仕方ない。今月が駄目でも来月のお小遣いで買える!そうだ!前向きに考えるんだ!」
そう言って着々と山道を進んでいく。
「そういえばリュシアン、任務と言っていたな。せっかく辺境まで来たのだから、少しくらい観光を楽しめばいいものを。すぐに行ってしまうなんて、せわしない男だ。……やはり彼に任されるのは、薬草採取なんかじゃないってことか……」
同じ3年生でありながら、自分と彼との違いに少し気落ちする。
「しかし……一体どんな任務なのだろう?僕に関係ないとはいえ気になるぞっ。……あとで本人に聞くか?いやそれもなんだな。うう 、気になる……」
そうこう思いながら進んでいる家に、赤い屋根のヤグラがついた大きな門が見えてきた。
「ん?あれはもしかして……ドルガノーアの人が言っていた奴らが勝手に立ててる門というやつか?」
近づけばそのもんには大きなスパイクが全面についているのが分かった。
「随分と物々しい雰囲気だな」
「何者だ!」
ヤグラの上にいた男が声を荒らげた。
「俺たちの村に何か用か!」
やれやれ、とマクシムは腕を組む。
「諸君がこの付近の盗賊団か!悪いことは言わない。今すぐ犯罪行為をやめろ」
「は?うるっせえな!」
「諸君は知らないだろうが、ドルガノーアの兵は既にキミ達を……ひゃん!?」
喋っている最中に、ヤグラから弓が飛んできてマクシムは慌てて片足をあげた。先程まで置いていたその足元にちょうど矢が刺さった。
「あああっ、危ないでしょう!?」
少し内股になりながらそう叫ぶ。
「あっち行け!殺すぞ!」
「いや、あのね。もう少し冷静に話し合いをね……」
今度はマクシムの顔の横スレスレに茶色い塊が投げられて、落ちてベチャッとしたそれが跳ね返って彼の制服を汚した。
「って、泥はやめなさいよ、泥は!」
次々と泥が投げつけられて着てマクシムは大声で叫ぶ。
「おい!門を固めろ!」
隊長格の指示に従って他の盗賊たちがヤグラの上にある手動のレバーを動かして、扉を閉めた。
「絶対に通すんじゃねえぞ!!」
「あいつら〜!この僕を泥まみれの砂まみれに!絶対に……絶対にゆるさーん!」
とはいえ、いくら盗賊でも殺す訳にも行かないし全員を倒すのも時間がかかる。
適当にレバー周りの盗賊を数人、弓で居抜き気絶させたあと、そのレバーに渾身の一矢を打ち込む。
「よし門が開いた!」
空いた瞬間直ぐに駆け出して門を抜ける。
「あっ、クソ!」
「おいっ先の奴らに報告だ!」
走って逃げれば、追っ手が来る様子はない。
「ふう……ひとまず先には進めそうだ。だが街の人はいくつも門を、作ってると言っていたな……。……また泥だらけにされるの……?」
それは嫌だな、と服についた泥をある程度手ではねながら進んでいく。
「随分景色が変わってきたな。まさか火山道の奥がこんな風になっているとは。ところどころが変色しているし、これは水が干上がった跡…か?」
河川の跡を見ながらマクシムはスン、と鼻を鳴らす。
「それにさっきからほんのり漂ってくる、このしつこいとも独特とも言える不思議な香り……。もしかしてこの辺りに温泉でもあるのだろうか?」
「考えてみれば不思議でもないか。この山は源獣ハリーオゥの膝下だ。マナが流れ込んで温泉になるのもうなずける。だが一つ気になるのは、そんなありがたい湯を"例の村"の連中が独占しているのではないかということだ。本来、ドルガノーアの民が恩恵を受けるべきものだが。……皮肉なものだな」
渇いた河川地帯を抜けるとまた門が見えてきた。
「おい来やがったぞ!ここは通さねえ……覚悟しろ!」
既に伝令が伝わっているのか、門が完全に封鎖されている。
「これが二つ目の門か……。押し通らせてもらう」
先程はヤグラの上にしか人がいなかったが、今度は地に足を付けたもの達が、剣を振りかざしてくる。
それらをいなしながら先程と同じように扉を動かす為のレバーに矢を打ち込んだ。
「よし、ここも突破だ!」
早々に門を抜け走り去る。
「……でも、あとどれくらいあるのこれ……。"村"というからには、そこそこ人がいるだろうと思ってはいたが……、防衛門にこれだけ人員を割いてるってことは、予想以上にいるんじゃないの」
1つ目の門も2つ目の門も十数名はいた。
「……村に着いた瞬間、全員に襲われたらどうしよう。こっちは1人だぞ!さすがに太刀打ち……」
情けない声を出した後、マクシムは口を閉じる。
「……いいや。甘い甘いぞマクシム!そんなことを恐れていては兄上や父上に顔向けできない!勇敢に戦うのだ!敗れても英雄!アセルマンの名に恥じず!たとえその身散っても!散っても……。……だ、駄目だ。負けることは考えないでおこう」
「しかし話に聞いていた通り、この辺りは獣が多い。よくこんな場所に村を作ろうと思ったものだ。人も近寄らないし隠れるのにはいいが………。……確か街の人は、戦でなにもかも"失った人達が身を寄せている"と言っていな。それにディーサも……」
彼女も戦争で住むところと両親を亡くしたと言っていた。
「……とりあえず、この目で見てみないことには始まらないな」
そして、長い道中の末、3つ目の門に辿り着く。
「出たな、門……今まで以上に守りが堅いな。ということはもしかして……あれが最後か?……気を引き締めねば!」
気合い十分に進めば、やはり同じように盗賊たちが襲って来た。
「ここが正念場だ!お前達、全力で行くぞ!」
「やはりこれが最後だったか。……この矢で 全部、射抜いてみせる!」