エピソードまとめ
□リュシアン・デュフォール
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ep.1 知慧の刃は密やかに
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【CHAPTER2 予兆 手がかり 推論】
998Y.C. 森国シルヴェーア キトルール草原
「……なるほど。それでこの三人なんですね」
「僕を選ぶとはさすがだな、その期待は報われるぞ!」
「ふふ、期待していますよ。マクシムさん。風車が見える五差路を目指しましょう」
〔道中会話〕
「うーむ。遊撃……。遊撃か一」
「どうしました、マクシム?」
「いやな、ヴァネッサくん。遊撃とは役目を定めない枠だろう?」
「そうですね」
「役目がないというのがなあ。どうにもやる気が出ないぞ」
「そこはこう考えましょう。遊撃とは臨機応変にして変幻自在。これぞまさに、少数精鋭のプレイズならではの任務……とね」
「しかし、そのなんだ。まるで雑用みたいじゃないか。英雄集い、相討つ戦場でこそ、僕の勇名も響こうというものを!」
「確かにマクシムさん好みでは、ないかもしれませんねえ。けれど……、人知れず自軍を支えた勝利の立役者……というのは?」
「む!?それは良いな!」
「きっとあなたの技が必要になります。頼りにしてますよ」
「ライバルに頼られる……か!悪くないなうん!」
〔道中会話〕
「おお!風車が見えてきたな!」
「マクシムさん嬉しそうですねえ」
「確かに任務中とはいえ、良い景観には心が洗われます」
「そう言ってもらえるのは嬉しいですねえ。あなたを選んで良かったです。ヴァネッサさん」
「わ、私を選んだ……」
「どうかしましたか?」
「いいえ、言葉の響きに少々戸惑いました」
「おおい、どうしたんだ。早くしないと置いていくぞ!」
〔道中会話〕
「この辺り獣が多いようですね」
「ええですが、こちらから刺激しなければ襲
ってくることはないはずです。マクシムさんはどう思います?」
「んっ?あ、ああ、そうだな。獣風情などわざわざ戦う必要もなかろう。猟は貴族のたしなみだが、こんな場所では趣にかけるからな……」
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〔五叉路〕ワービー、ウリドン、オタグリ
「な、なんかいるぞ!」
「……我々を見て逃げませんね」
「……確かに」
「随分と興奮しているようです」
「まずいな。人を恐れない獣はいずれ人を獲物と見て襲うぞ」
「やはりそう思いますか……。他に被害が及ぶ前に仕留めておきましょう」
「よかろう!我が弓の冴え見るがいい!」
獣の群れ討伐後。
「ひどく興奮した獣でしたね」
倒した獣の中でマナに還らず残ったウリドンの死体を見つめるリュシアンにヴァネッサがそう声をかけた。
「腹でも減ってたんだろ」
「腹が減った、ですか……」
マクシムの言葉を復唱してリュシアンは、じっと、ウリドンの口元を見つめた。その口元にはベッタリと何かが付いていた。
「どうしました?」
「いえ。ともあれ、少し休みませんか?私は戦ってお腹が好きましたし。幸い、ここに新鮮な肉もあります」
「く、食うのっ!?」
マクシムは驚き身を引く。
「獣のさばき方なんか知らないぞ」
「ああ。それは、任せてください。それなりにたしなんでいますので」
そう言ってリュシアンはその場にしゃがみ込んだ。
「む、むむう……底知れないヤツ」
「手伝います」
ヴァネッサはリュシアンの隣にしゃがむ。
「マクシムさんは火起こしをお願いします」
「火起こしか!うむ、承知した!良い火を起こそうじゃないか!」
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食後。
「いや〜、美味いものだった!元よりジビエは好むところだが……。自ら狩り、屋外にて食す。この野趣たるやどうだ!」
「マクシムはご機嫌ですね」
「なによりのことです。それに収穫もありました。先ほどの獣の口についていたものですが……」
リュシアンはハンカチに取った、粘着性のあるそれをヴァネッサに見せる。
「なんですか?独特の匂いがしますが………」
「なにかの草から作った薬でしょう。私の予想では……。いえ、素人判断は禁物ですね、ポワトゥー駐屯地なら薬に詳しい人もいます。調べてもらいましょう」
「そうですね」
そう言って彼らは五叉路の風車から右奥側の道を進んで行くのであった。
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〔道中会話〕
「しかし、リュンヌも大変だな。前線に近いから帝国の侵攻を直で受けるのか」
「とはいえ、衝突は散発的なもの。大規模な侵攻はありません。まだ……と言うべきかもしれませんが」
「ええ。まだ、です。実際今回の私達の任務も、今後の大規模衝突を予想してのものですし」
「ううむ………」
「ですから遊撃とはいえ、期待はされていますよ」
「責任重大だな……。ブレイズの力、しっかりと示そうじゃないか!」
「はい、頑張りましょう」
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〔獣の群れ〕オタグリ、ウリドン、ゴウリドン
「数が多いですね………背中は任せましたよ」
「心得ました」
獣討伐後。
「お見事です」
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〔道中会話〕
「ところで、僕の火起こしは最高だったろう」
「ええ。マクシムさんは火起こしの達人ですねえ。野営の授業でも誰よりも上手でしたし」
「おおおっ!?そうか、覚えていてくれたのか……。うむっ。さすがは我がライバル!大した観察力だ!」
「この先も色々と頼りにしていますよ」
「はっはっはっ。任せたまえ!期待されるのは……実に良い!」
「リュシアンはどこでのさばき方を?」
「もう随分前です。故郷の村になんでもできる先生がいて、その方に多くのことを教えてもらいました。剣の持ち方に戦術や魚のさばき方…………。それに美味しい林檎の見分け方なども」
「リンゴ……ですか」
「ええ。先生は林檎を育てていたので」
「ふむ。万事に秀でる人間はいるものだな」
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〔駐屯地目前、獣の群れ〕オタグリ、ワービー、ウリドン、ゴウリドン
「また獣か!帝国よりも自然との戦いだな!」
「ええ。こちらの体力などお構いなしですね」
「おやもう疲れたのか?僕はまだまだ平気だぞっ」
「リュシアン、お下がりください。ここは我々で始末をつけます」
「いえ。大丈夫ですよ。お気になさらず」
獣討伐後。
「さっきの獣達も異常に凶暴だったな」
「野生の獣が戦争で刺激されたりはしないはず」
「そうですね……。駐屯地に着いたらこのことも報告しましょう」