エピソードまとめ
□リゼット・レニエ
8ページ/18ページ
ep.1 補習授業
─────────♢────────
【CHAPTER4 戦場に立つ資格】
「確かにおかしいと感じることは多かったです。エマちゃんの話は……村の人達の話と食い違い過ぎていた」
リューラン岩窟からボーナ村へと戻りながら、ユーゴは語る。
「だからエマちゃん達家族が諜報員だっていうのも理解はできます………。でも……。すみません教官……。整理がつかないです」
「……そうか。だがわかっているだろう?お前達はもう……"覚悟"を決めなくてはならない」
ボーナ村へと戻るまでの間、レオは一言も発しなかった。
998Y.C. 森国シルヴェーア ボーナ村
リゼットはボーナ村の広場で足を止めた。
「ここらが貴様らに課す、"最後の課題"だ。心して聞け」
「「…はい」」
「覇気のない"はい"だな。まあ、いい。貴様らに上官として命令する。あの一家を速やかに殺せ」
「なっ……」
「なにを呆けた顔をしている?やつらは明確な敵だぞ。殺せ」
「か……彼らに容疑がかかっているのは理解しました。でも、ならば"捕縛"で充分なのでは?なにも殺す必要なんて………」
「冷静さを欠いた、らしくない意見だなシモン。……もし一人でも取り逃せば、連邦軍に多大の被害が出るとはおもわないのか?」
「そ、それは……」
「……もう一度命令する。あの家族を殺せ。そして私に"覚悟"を示せ」
「覚悟は決まったか?レオ・フルカード
「……はい」
「ユーゴ・シモンも腹をくくったか」
「……はい。決まりました」
「……よし。ならばことは迅速に……」
リゼットが話している途中に関わらず、レオとユーゴは剣を抜いた。そして、それを構え、リゼットに向けた。
「……なんのつもりだ、お前達」
「すみません教官。残念だけど俺……やっぱりブレイズは失格でいいです」
「……まさか人殺しに怖気付いたのか?」
「そうっすね………。その通りです。俺は……俺達は、エマを殺したくない」
「たとえ彼女が諜報員だとしても、僕には……あの笑顔が全部嘘だとは思えない」
「それこそ諜報員の常套手段だ」
「だとしても……それでも俺は、あの子を殺すのは違うと思うんです。」
「馬鹿な感情論を振りかざしているのは理解しています。けれど……それでもエマは……あの子は殺さない。いや…、…教官にも殺させやしない」
「だって絶対。こっちの選択の方が"気高い"っすから!」
「…いいだろう。その"覚悟"しかと受け取った。では、行くぞ馬鹿共ども!」
リゼットも両手に銃を構えた。
「さあ、貴様らの覚悟を見せてもらおうか。私の実力のほどは知っているな。それでも命令に背いたということは……ここで死んでも文句がないということだ」
「はは……、マジでやべえのに喧嘩売っちまったな。でも……ここで負けるわけにはいかねえ!」
〔HP半分まで削る〕
「く、くそっ……やっぱり強ええ……」
「実力の差が理解できたか?今考えを改めれば、命令違反も目を瞑ってやる。ブレイズの試験も合格にしてやるぞ?」
「………なにを条件にされても 殺すのは絶対に嫌です。それに僕はブレイズに入るより……レオの親友として誇れる自分でいたい……!」
「ならば、口だけでなく力で私を捻じ伏せてみろ!」
〔HP残り少し〕
「はあっ……はあっ……。クソッ、化け物かよ……」
「でも絶対に負けるわけにはいかない……。エマちゃん達を殺させるわけには、いかないんだ……!」
「……やはり………。やはり私はどこかでシモンに会っている。前に思い出したあの炎の光景は………。………もしかして」
〔二人を倒し終える〕
「…素晴らしいじゃないか。僅かにだがヒヤリとさせられる場面があったぞ」
「まだ……まだ、だ……」
肩で息をしながらレオは起き上がる。
「あの子達を……殺させるわけには……」
「いや、すべてもう終わりだ」
リゼットはそう言い放ち、そして大きく息を吸った。
「おーい、お前達すまないな」
村に響くような大きな声でそう言ったリゼットに、レオもユーゴも、なに?と言った様子で顔をあげる。
「"幸せ家族"の演技はもういいぞー」
「あ、終わったんだね!」
ひょこっと、物陰から、エマとその両親が出てくる。そして、
「お疲れ様です!」
とエマの父親が背筋を正した。
「「……は?」」
レオとユーゴは、ぽかん、とした後意味を理解し、大きく息を吐きながらその場に腰を下ろした。
「まさかエマたちが、教官と組んでたなんて……」
「元々軍に仕官していたエマの両親とは同僚でな。今回お前達を試すために一芝居打ってもらったのさ」
「じゃあ、洞窟にあった帝国軍の痕跡がどうとかは……」
「ただのデタラメだ」
「ま、マジっすか……」
「……おかしいと思いました。帝国の諜報員にしては雑な点が多過ぎますよ」
「はは、この課題は急ごしらえだったからな。その点に気づいたのは見事だったぞ、ユーゴ・シモン」
「……そ、そうだな。確かになんか、いろいろおかしかったよな、ははは!」
なにも気づかなかった、レオはさも自分も気づいていたようなフリをする。
「さて、お待ちかねの課題の結果だが……」
「……言われなくてもわかりますよ」
「感情を優先して教官に刃向かったんだ」
そう言ってユーゴもレオも立ち上がる。
「そんなの当然……」
なあ、と言うようにレオはユーゴを見る。しかし、リゼットは、
「文句なしの合格だ」
そう告げた。
それに二人は驚いて目を見開く。
「俺達が……ブレイズ合格……!?」
「……でも、僕達は上官に刃向かって……」
「そうだな。命令違反は軍人として失格だ。だが、それがお前達の示した"覚悟"なのだろう?………それに最後まで人間性を手放さんと足掻く者にこそ、真の意味での戦場に立つ資格がある……。少なくとも私はそう考えているよ」
「教官……」
「さて、では最後に今一度、意志を確認させてもらおう。レオ・フルカード。ユーゴ・シモン。お前達はブレイズとして……私の下でこれからも学ぶ気はあるか?」
リゼットの問に、二人1度顔を見合わせた。
「はいっ!」
「よろしくお願いいたします。リゼット教官!」
「ああ………。今日一番のいい返事だ!」