エピソードまとめ
□リゼット・レニエ
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ep.2 絡みつく過去
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増援の帝国兵も全て倒しきり、三人は武器を収めた。
「た、助かりました。ありがとうございます!」
「……私達を砦に放り込み、後続部隊も頼りにならない……か」
「も、申し訳ありません。自分達も突如集められたもので……」
礼を言いに来た兵が、リゼットの言葉を聞いて萎縮してしまった。
「いや、こちらこそすまない。お前達も被害者だったな。私が巻き込んだも同然だ」
「教官、そんなことは……」
「……よくわかりませんが、皆さんも制圧戦参加者ですよね?この近くに本陣があります 。まずそちらに合流を……」
「……いや」
リゼットは何故だか、首を振った。
「指揮官に伝えろ。私達は本陣に合流せず……、このままバイヌセット砦に突入すると」
「な!?」
驚く連邦兵を置いて、リゼットはそのまま走ってバイヌセット砦へ向かう。
リュシアンとヴァネッサも急いでその後を追う。
「この様子では本陣に合流しても、得られるものは少ない。であれば敵に気取られる前に、一秒でも早く皆を襲撃すべき……そういうことですね?」
リュシアンの考察にリゼットは頷く。
「ああ。行くぞ、二人とも」
門の前まで駆け抜けて、扉を開ける前に、リゼットは二人を見た。
「さて、ここからが本番だ。さあ、貴様らの戦い方を見せてみろ」
「はい!」
「了解です!」
強く頷いた二人をみて、リゼットは一気に扉を開けた。
「な、なんだ貴様らは!」
中にいた帝国兵達は、入ってきた三人をみて驚いた。
「課外授業中の教師と生徒だ。少し社会科見学させてくれ」
「ふざけたことを!やっちまえ!」
そう言って襲って来た兵達を三人は簡単に倒して行った。
「幸いにも門は手薄でしたね」
「ですが、ここからが本命です」
「お前達、ちょっと待て」
先へ行こうとする二人を止めて、リゼットは入ってきた門へ戻りその門の前に地爆石を置いた。
そして少し離れたところから、銃弾を撃ち地爆石に衝撃を与えると、それはドォンと大きな音を立て爆発し、門を焼いた。
「教官?なぜ地爆石を?これでは後続が……」
「それでいいのさ。あの練度の兵に来られても被害が増すだけだ」
ヴァネッサの問にリゼットはそう答えた。
「後続が来る前に司令室をおさた、一気にカタをつける。素晴らしいご判断ですが……思い切りが良すぎますよ」
「知らなかったのか?今でこそ教官だが私の本質は、まごうことなき問題児だ」
「ははっ……」
「なんとなく、わかります……」
「貴様らが門を燃やしたのか!連邦の犬がよくも……!やるぞ、お前達!」
わらわらと、砦の建物から帝国兵達が集まってきた。
「……来ましたね」
「これだけ大々的に宣戦布告してしまえば、仕方ありませんねえ」
「なんだそれは。私に対する文句か?」
「ははは、滅相もありません」
「なんにせよ、いずれ戦うことになる敵です。ここでまとめて仕留めた方が楽でしょう」
「ふっ、心強いな!」
そう言って三人は、帝国兵達と対峙するのだった。
「連邦と帝国の力の差は深刻ですね……」
帝国兵立ちを倒し終わりリュシアンがそう呟く。
「現状はな」
同じ有象無象でも、誰にでも創術が扱えるようになる強力武器を持つ帝国兵達と、そこいらの連邦兵では明らかに強さが異なる。
「だが、個人で国を落とせるほど強力な存在になる者がいる。お前達、ブレイズだ」
彼らはエンブリオに選ばれた者達の中から更に選ばれた上位の使い手だ。
「そんな夢物語みたいな……」
ヴァネッサがそういうが、リゼットは本気で、彼らならそうなると思っていた。
バイヌセット砦の建物内に入ると、入口すぐの所にピンク色の大きな獣が倒れていた。
「な、これは……」
「巨大な獣が倒れてますね。タグに名前が……」
そう言ってリュシアンが獣の首に着いたタグを見た。
「キャサリン?」
「帝国に飼われていた獣か」
ポワトゥー駐屯地で、キャサなんとかという獣がいる、という話があったが、恐らくこれのことだろう。
「それがなぜここで倒れて?誰かにやられたようですが……」
「この銃創……」
リゼットは獣の体に付いた傷跡の形状に見覚えがあった。
「なにか心当たりが?」
「どうやらまた絡んで来ているらしいな。あいつが」
「あいつ?」
「気にするな、基本的に害はない。ただ遭遇したら、その時は斬り捨てても構わないぞ」
「な、なにやら酷い扱いですね……」
ヴァネッサが少し引きながらそう言って、三人はとりあえず獣から離れ、降ろされた格子状のゲートのレバーを引き上げて、砦の奥へ進んでいく。
「気のせいかもしれませんが……、先ほどから妙にパンの香りがしませんか?」
ヴァネッサがそう言えば、リュシアンはすん、と匂いを嗅いだ。
「言われてみれば……。パンの業者さんでも来ているのでしょうか」
「いたぞ、侵入者だ!」
そんな話をしながら進んでいたら前方から帝国兵達が現れた。
「全員かかれーっ!」
「制圧戦らしい雰囲気になってきましたねえ」
襲いかかってくる敵兵をいなしながらリュシアンは呑気にそういう。
「次から次へと……本当に歯ごたえのある任務ですね」
「大丈夫だ。お前達ならやれると信じている。そうでなければ連れてきたりしない」
「いやいや、なんとも厳しい信頼で。ならば多少は応えるとしましょうか!」
「いいか!遠慮はいらんぞ!貴様らの持つ技術のすべてをぶつけろ」
「試してみましょう!」
「心得ました!」
リゼットは銃で敵を蹴散らし指示を出し、リュシアンとヴァネッサは敵を斬り伏せながら返事をするのだった。