エピソードまとめ
□ミシェル・ブーケ
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ep.1 トリアージ
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【CHAPTER3 急転】
998Y.C. アムル天将領 バジン村
「……はあ。この間は大変だったな。今日は穏やかな日だといいけど」
カウンターの前に達先日のとこに耽っていると、カランコロンと診療所の扉が開かれた。
「おはよう、ミシェルちゃん……」
「あ、先日オタオタに襲われた……」
カウンターに近づいてきたのは、あの日創術を使って治療した患者さんだった。
「……ああ、見苦しいところを見せたね」
「いえ、それはいいのですが、今日はどうされました?」
「ちょっと転んじゃってね。膝をすりむいたんだ」
「本当ですか?また獣に襲われたとかじゃ……」
「な、なんでわかるんだ!?」
「……やっぱり。ダメですよ、本当のことを言わなきゃ。どんな獣にやられたんですか?
それによって処方するお薬も変わるので」
「……オタオタだ」
「え?」
「オタオタと戦って逃げる途中に転んで……」
「じゃあ、本当にすり傷なんですね?」
「はい……」
「承知しました。少々お待ち下さい。すり傷の薬は確か……うん、これだ」
1番奥の棚から薬を取り出しカウンターに戻る。
「はい、こちらです」
「ありがとう」
「それにしてもまた村にオタオタが出たんですか?」
「いや……今回は、リベンジしようと思って村を出たんだけど今度は複数で現れやがって……。タイマンだったら負けなかったんだけどな……。……油断したぜ」
「そうですか………。気を付けて下さいね」
「ああ、いつか倒してみせるから、その時は報告するよ。じゃあな」
男性が出ていって、それから少ししてまた扉が開いた。
「あー!ミシェルちゃんだー!」
そう言って女の子がカウンターまでかけてきた。その後ろにはその子の母親が居て扉を閉めている。
「あらっ、村長さんの………今日はどうしたの?」
「ごめんなさい、胃もたれに効く薬が欲しくて……」
「そうでーす。いもたれくださーい!」
「……えっと大人用と子ども用、どちらでしょう?」
「……その、両方でお願いします……」
「両方?わかりました、ご用意しますね。そういう種類の薬は右の棚だね」
右の棚を探し見る。
「うん、これだ」
2つ分の薬を手に取る。
「お待たせしました」
「ありがとう助かるわ」
「ママね、おなかいっぱいなんだって。わたしは食べれるのに」
「どういうことですか?」
「……あはは。この前この子の誕生日に作った料理が、張り切って作り過ぎちゃって、まだまだ残ってるのよ」
「ああ、それで……食べ過ぎて胃もたれを……」
「この子はまだ食べれるようだけどその内……ね」
「なるほど……」
「だいじょーぶ!ママのりょうりおいしいもん!」
「でもお腹痛くなるのは嫌でしょ?だからちょっとずつ食べるんだよ?」
「うん……」
「お母さんも、もしあまりに多かったら、うちに持ってきて下さっても大丈夫なので」
「そう?じゃあ、あとでおすそ分けしに来るわね」
「はい、祖父といただきます」
「ばいばーい、ミシェルちゃん!」
「うん、ばいばい」
親子が帰ってしばらくして三度扉が開いた。
「どうもー」
「ああ、いらっしゃい………ってナマルさん!もうお体は大丈夫なんですか?」
「ああ。見ての通り完全快復さ!その節は本当にありがとうな、ミシェルちゃん!」
「いえいえ。お元気になられたなら良かったです。ところで今日はどうされました?」
「………えーと、さっきは完全快復つったけど、実はまだ少し傷口が痛むから、その……今度こそ……!」
「ああ、痛み止めですね。ちょっとお待ち下さい」
「ああ、いやできれば、ミシェルちゃんに塗って……」
「痛み止めか……左の欄かな」
ナマルの話を聞かずミシェルはカウンターを離れて行った。
「はいどうぞ」
「い、いや……」
「なにか?」
「うう……相変わらずいい笑顔だぜ……!くう……また来るよ、ミシェルちゃん!」
「あはは、お大事になさって下さいね。……よしこれで午前の受付は終わりかな?お爺ちゃんの所に行こう」
カウンターから出て奥の診察室へ向かう。
「お爺ちゃん、私昼食の支度してくるよ」
「ん?あ、ああ……」
「お爺ちゃん?」
「その……ミシェル。昼食の前に少しいいかの?」
「いいけどどうしたの?」
「ああその……なんというか…………お前の両親のことについて、なんじゃが……」
「え……」
「がああああ……!」
診療所の外からまるで獣が唸るような声が聞こえた。
「なに!?今の声は?」
外にでると、はあ…はあ…と、荒い息をし倒れてる人がいた。
「な………!?」
「うぐ……があ……!」
倒れている人の顔色は青く、痣のようなものが浮かび上がっている。そして、身体には何かに噛まれたような跡もある。
「な、なにこれ……!いいえ、それよりもお爺ちゃんこの人凄い大怪我してる!」
「これはいかん!ミシェル、薬の準備を!わしはこやつを診察室に運ぶ!」
「は、はい!」
二人は急いで診療所へ戻る。
「ええと……あの患者さんに必要な薬は……」
カウンターの奥へ飛び込む勢いで入り、棚の中を見て回る。
「いえ……違う」
1つ目の棚にはない。
「これは……違うか」
2つ目の棚にも見当たらない。
「これじゃないな……」
3つ目の棚にもない。
「おい、誰かいるか!?」
「ま、また誰か来た?」
驚いて入口を見てミシェルはまた驚いた。
「え、貴女は……グレースさん!?」
「な!?キミはミシェルか?まさか、こんな……。いやそんなことより、キミは大丈夫か!?」
「大丈夫かと言われましても、いったいなんのことやら……」
「今ここに来た男に襲われなかったかと聞いている!」
「襲われる?あの患者さんにですか?」
「患者だと?そうかここは診療所だったか。
して奴は今どこに?」
「え?あの方なら今、祖父とともに診察室の方に……」
「あああああ!」
「お爺ちゃん!?」
叫び声がして慌てて二人は診察室に向かう。
「な、なに?」
診察室の扉を開けたらオーリが見たこともない化け物に押し倒されていた。
それを見たグレースが一目散に駆けて剣でその化け物を切り裂いた。
「く、遅かったか……!」
「……お爺ちゃん!」
「来るな!」
倒れたオーリに駆けよろうとしたら、グレースに止められた。
「何言ってるんですか?このままじゃお爺ちゃんが!」
「……そうか、彼はキミの祖父か。残念だが、もう……」
「ふざけないでください!どいて!」
グレースを押し退け、ミシェルはオーリの傍へ寄った。
「あ、おい!」
グレースはミシェルを止めようとして驚く。
ミシェルはオーリに創術を掛けていた。
「な、なんだ、その凄まじい創術は……」
「お爺ちゃん!起きて!血は止まったよ!だからほら……!」
「う、うう……」
「え……なに、これ……」
オーリの顔をみると、一部が血の気のないような肌の色に変色し、痣の様なものが浮き出てきた。
「それは、少し前に見つかった新手の感染症だ」
「感染症?」
「体液を介した接触感染型の病で、一度感染したら最後、思考が獣化し、見境なく人を襲うようになる。我々はこれを……"蝕魔病"と呼んでいる」
「蝕魔病……。治療方はないんですか!?」
「残念ながら。蝕魔病患者にできることはただ一つ。感染を広げる前にその命を刈り取ることだけだ」
「そんな!いつか治療手段が見つかるかもしれないのに!」
「駄目だ!彼らは凶暴化したあとマナを暴走させ爆発を起こし死に至る。……さながら花の開花の如く、周囲に感染粒子を巻き散らしながらな。そうなる前に速やかに殺さねばならない」
「……どうあっても祖父を殺すと言うんですか!」
「それが私の"任務"だからな」
「そんな"任務"なんて……!」
「私とて本来は騎士ではなく軍医を務める者。恥じ入る気持ちはあるさ。しかし……やらねばならん。キミも医療に従事する者ならわかるだろう?一時の感情で判断を誤ってはいけない」
「……それは」