エピソードまとめ
□ミシェル・ブーケ
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ep.1 トリアージ
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〔診療所の隣の家〕
「こんにちは」
「あ、ミシェルちゃん!ママはりょうりちゅうでーす!」
「あ、今日はママじゃなくて貴女に用事なの」
「わたしに?」
「うん。だって今日、お誕生日でしょ?村長さんからのプレゼントを持って来たんだ」
そう言ってミシェルは雑貨屋で受け取ったプレゼントを女の子に手渡した。
「わーい!ぬいぐるみだー!」
「ふふふっ……」
喜ぶ女の子を微笑ましく見ていると、上空から勢いよく鳥が突撃してきた。
「危ない!」
慌てて女の子を抱きしめて庇う。しかし、女の子が掲げていたぬいぐるみを奪いとられてしまい、鳥は木の上の巣に持ち帰ってしまった。
「ぅう……わ、わたしのぬいぐるみが」
「…ちょっと待っててね。今、取ってあげるからね」
ミシェルは杖を構え、真っ直ぐに召喚創術を打ち出した。
獣の姿をした創術が走っていき木に突進すれば、ぶつかった衝撃的木が揺れて、ぬいぐるみが鳥の巣から落ちてきた。
「はい、ぬいぐるみ」
「すごーい!なに今の、もっと見せてー!」
「あはは、そうだな……。貴女がそのぬいぐるみを大事にしてくれたら、またいつか見せてあげるからね?」
「ホントに!?約束ね」
「うん約束」
「じゃあ、わたし、ママにプレゼント見せてくる!」
「うん、ばいばい」
ぬいぐるみを頭に乗せ楽しそうに家に帰って行く女の子を見送って、ミシェルも診療所へ帰ろうと歩始める。
「ふふっ、楽しそうで良かった。お母さん……か。……私の両親はお医者さんだったらしいけどどこで働いてたんだろう。うちの診療所?アムル・カガンの外の出身て聞いたけど……私、お父さんとお母さんのこと、なんにも知らないんだな……。うん決めたお爺ちゃんに聞いてみよう。この話をするといつも困らせちゃうけど……それでも、やっぱり私は知りたいもの。そうと決まったら早く診療所へ帰ろう!」
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「私の術……今日は色々役に立てて良かったな。でもこればっかりに頼ると、「知識が身につかない」ってお爺ちゃん怒るから。ほどほどにしないとだけどね」
そう呟いて診療所の扉を開ける。
「ただいまー」
「ああ、おかえり、ミシェル」
「怪我をした人は大丈夫だった?」
「ああ、問題ないもう家に帰ってもらったよ」
「良かった………。……あのねお爺ちゃん 聞きたいことが……」
「お前の方こそ村長の腰は問題なかったか?」
「……あ、うん。大丈夫だったよ。ちゃんと治療できたと思う」
「思う?」
「でき……ました」
「ならば良いが。お前には再三言っとるが、胸を張れない仕事はするな。常に"正しい"と確信を持って動けだよね。うん、わかってるよ……」
「さっきのは例外として、当然理屈のわからない創術に頼るなんていうのは……」
「わ…わかって……います」
「……ならいい。ミシェル、わしはな……」
「オーリさん、急患だ助けてくれ!」
「今のって外から?」
二人は慌てて診療所の外に出る。
先程ハパラーシア湿地にいた男性と地に寝かされたナマルが居た。
「どうした!」
「獣避けの設置作業中に現れた獣にナマルが襲われた!」
「見たところ傷自体は深くないが……。どういう獣だった?」
「ザルーゴだよ」
「と、とりあえず私の創術で傷口だけでも寒いで……!」
「やめんか、ミシェル!」
「ど、どうして……!」
「聞いたであろう?この傷はザルーゴに受けた傷じゃ。先ほどの患者と違って塞ぐ前に 薬草を塗り込まねばならない」
「じゃあ早くそれを……」
「が……必要な薬草を切らしてしまっておってな……。採取場所である塩取りの穴という洞窟は、傭兵を雇って行くしかない。獣の生息地でもあるし……」
「それじゃナマルは!」
「……ザルーゴに受けた傷に特効があるわけではないが、一応、あり合わせの薬剤である程度の対処は……」
「それは駄目だよ、お爺ちゃん」
「ミシェル……」
「お爺ちゃん、いつも言ってるよね?胸の張れない仕事をするなって」
「じゃが……」
「…私が行ってくるよ」
「ミシェル!なにを馬鹿な……」
「大丈夫。私の創術、実は戦闘も出来ちゃうんだよ。お爺ちゃんは知らないかもしれないけど」
「お前いつの間にそんな……。いや、しかし、だからと言って……!」
「ごめんね、お爺ちゃん。でも私は……、これが今、1番"正しい"選択だって思うから!」