エピソードまとめ
□ミシェル・ブーケ
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ep.1 トリアージ
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「村長さんの家は橋の先だよね。お爺ちゃんは厳しいけど……。……誰より"正しい"ってわかってる。……頑張らなきゃ」
気合いを入れてミシェルは、村長の家を目指し村の中を歩き始める。
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〔バジン村内会話〕
〔右側の門〕
「あの、ここはバジン村であってますか?」
「はいそうですけど、旅の方ですか?」
「……旅というかこの村に、オーリさんという方がやってる診療所があると聞きまして」
「ああ、患者さんでしたか。はい、ありますよ」
「はあ〜、良かった〜」
「じゃあじゃあ!噂の美人女神様っていますか?」
「え?」
「その診療所にいるって聞いて、見に来たんですけど!」
「そ、それたぶん、私のことです……」
「やっぱり!どうりで美人だと……!」
「い、いえそんなことは………」
〔ドーマさんちのバジンビスク〕
「おや、ミシェルちゃん。お仕事かい?」
「あ、ドーマさん。はい、ちょっと祖父に頼まれて……」
「また無理難題を言われたんじゃないだろうね?前から言おうと思っていたけど、オーリさんはいつも、ミシェルちゃんに厳し過ぎじゃ……」
「そ、そんなことはないですよ。それに祖父が厳しいのは、私を思ってのことなので……」
「そうかい?ならいいけど、そうだ!いいレシピを教えてあげるから、これを食べて頑張っておくれよ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
〔ボロルくん〕
「お、ミシェルねーちゃん!」
「ボロルくん、今日は怪我してない?」
「してるわけないじゃん。今日はオレが連邦側だぜ?連邦のエンブリオは超強いからな!」
「あら、また戦争ごっこなの?」
「なんだよねーちゃんも、かーちゃんみたいにガミガミ言う気か?」
「ううん。男の子は多少怪我するくらい、元気に遊んでこそだと思うよ」
「だよなー。でもミシェルねーちゃんは 運動音痴っぽいから、俺達の遊びに混ぜてやんなーい。タルルハン様の役で動かない……とかならいいけど!」
「あはは……。それは楽しそうだね」
〔村内のご老人〕
「お爺さん、こんにちは」
「ああ……ミシェルちゃんか」
「今日も変わらずお元気そうですね」
「そうだねえ。なにも変わらないねえ。長いことこの村で暮らしていると、一度でいいから 緑都イザミルへ行ってみたいとか、巫女王様を一目でいいから見てみたいとか、いろいろと思ったこともあるけど、こうやって穏やかな日々を送るだけでも、それはそれで悪くないよ」
「確かにそうですね。私もこの村での毎日が大好きです」
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〔村長の家の前〕
「あら、ミシェルちゃん。こんにちは」
「こんにちは。村長さんはいらっしゃいますか?」
「ええ。家の中に今日は腰痛がひどいみたいでねえ。それでオーリさんは……」
「祖父は診療が立て込んでいるため、代わりに私が診察することになりまして……」
「あらあら、そうなの?」
「すみません……」
「ふふ、なにを謝ることがあるんですか。むしろミシェルちゃんに、診療してもらえるなんてうちのは大喜びよ」
「精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」
「ふふっ……そんなに硬くならないでいいのよ。じゃああの人をお願いね、ミシェルちゃん」
「はい!さあ……頑張ろう!」
気合いを入れてミシェルは村長の家の扉をあけた。
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〔村長治療後〕
「よし……と。これで徐々に痛みは消えて来ると思います」
「うむ……。見事なもんじゃな。もうオーリの手際と遜色ないではないか」
「………そんなことは。まだまだ学びたいことばかりです」
「学びたいこと……か。うちの村の近くにも、大きな学校の一つもあれば良かったんじゃがのう。お主のような有望な若者に、ここは退屈な村じゃろて」
「私は毎日凄く充実していますよ。それに学ぶことは、どこでだってできるんです。心掛け次第で」
「本当にいい子じゃな、ミシェルちゃんは。それに比べてうちの孫娘ときたら、今日で5歳になるというのにヤンチャでの……」
「今日で?あ、お誕生日なんですね!おめでとうございます!」
「ああ……本当なら今日手配した孫へのプレゼントを、雑貨屋に受け取りに行くはずだったんじゃが……こんな日に限って腰がのう」
「じゃあ私が受け取ってきましょうか?雑貨屋さんで買い物して帰るつもりだったので」
「本当かい?では厚意に甘えるとしようかの。プレゼントは直接、孫娘に届けてくれると助かるよ」
「了解です。では行って参ります!」
そう言って村長の家をでる。
「雑貨屋さんは橋を戻ったらすぐだね。お孫さんへのプレゼントか……ふふっ、素敵でいいなあそういうの」
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〔雑貨屋前〕
「すみません。プレゼントを受け取りに……」
「あ、ミシェルちゃん!大変なんだよ!」
「血相変えて、どうされたんですか?」
「ついさっき村の外れで獣が出たらしい!」
「え、獣ですか!?」
「ああそのせいで怪我人も出てるみたいなんだよ!」
「そうでしたか。了解です、急いで向かいます!」
「……え?ミシェルちゃん一人で?ちょっと待つ……」
雑貨屋さんの制しも聞かずミシェルは飛び出して行く。
「村の外れってことは、左側の門を抜けた先かな。なんで村に獣が……。普段は人が住んでいる場所に寄ってきたりしないのに。……怪我をした人、無事だといいけど……」
雑貨屋から左に向かって進んでいき、門を開けて村の外にでる。
「やっぱり1度、応急箱とか取りに行った方が良かったかな……ううん、急を要する状態かもしれないし。私には創術があるもの……」
独り言を言いながらパパラーシア湿地に入る。
「あれは……」
湿地に入ってすぐに、男性達が4人集まっていた。
「お爺ちゃん」
「ミシェル来たのか」
「状況は……」
「命に関わるほどではないがあまり良くないな。襲って来た獣はもういないようだが、早く移動させなくてはまた現れる恐れもある。
せめて少し動ける程度まで回復させられれば……」
「……お爺ちゃん。ここは私の創術で……」
「…………致し方あるまい。あまり"その力"を頼りたくはないが……。やってくれ、ミシェル」
「……うん!」
〔ナマルと会話〕
「……ナマルさん」
「ミシェルちゃんそんな顔しないでくれよ。
今度獣が出たら俺達が退治するからさ」
「でもそれでナマルさんの身になにかあったら……」
「大丈夫!その時はミシェルちゃんの薬ですぐに元気になるから!」
「ダメです!まずはそうならないように気を付けないと」
「そ、そうだね……」
〔治療〕
しゃがんで倒れた男性の容態診る。
「ううう……不意をつかれちまった……。正々堂々と戦えばオタオタなんて……。…!…油断したぜ」
「意識はあるようですね……。すぐに治しますから頑張って下さい」
そう言って立ち上がって、杖を持ちミシェルは召喚の舞を始めた。
そして溜まった力を一気に解放する。回復獣を召喚し、その獣が放つ光が患者を包み込んだ。
「おお……これは……」
「これでもう大丈夫です」
「よくやった、ミシェル。最良の結果と言って良いじゃろう」
「良かった!」
「ただ油断もできないからの。一応検査のため患者を連れて診療所に戻るとしよう」
「うん。……あ、私はちょっとだけ用事を済ませたら戻るね」
「用事?」
「……えっと、村長さんのことでちょっと……」
「……そうか、わかった。行ってこい」
「俺達は村にが近付けないように、村の外に獣避けを仕掛けて来るよ」
「お願いします、ナマルさんお気を付けて。じゃあ、またあとでね。お爺ちゃん」
祖父たちと別れて一足先に村へ戻る。
「さあ、雑貨屋さんに戻ってプレゼントを受け取らなきゃ。村長さんどんなものを選んだんだろう?」
門から右側に進み、雑貨屋に戻った。
「あ、ミシェルちゃん大丈夫だったかい?」
「はい、なんとか。怪我をされた方は今祖父が診てくれています」
「そうかい。それは良かったよ」
「…それで私、村長さんから商品の受け取りを頼まれていまして……」
「おっとそうなのかい?それだったらこれだよ」
「ありがとうございます!……あとはこれを孫娘さんに渡すだけだね。診療所のお隣さんだけど、この時間はいるかな?」