エピソードまとめ
□ミシェル・ブーケ
16ページ/19ページ
ep.2 理解の縁
─────────♢────────
「マルクのやつどこ行ったんだ?」
「ひとまず村の中を探してみましょう」
薬屋を出て、二人はぐるりと村を回る。
マルクを見つけたのは川の傍だった。
「マルクくん……」
「お姉ちゃん達……」
「さっきは悪かったな……」
レオが謝れば、マルクは首を振った。
「……ううん。いいよ。言いつけ守らなかったの僕だし……」
「マルクくんはお爺さんのために、エミル草を採ろうと村の外へ?」
ミシェルが尋ねるとマルクは頷いた。
「うん……でもエミル草のある寂光丘陵には、最近変な獣が出るって聞いたから、他のとこにもないか探してて……」
「……なるほど。それなら私達にお手伝いさせて下さい。実はブレイズの任務で、獣退治に来ているので、その途中でエミル草も採ってきます。いいですよね?フルカードさん」
レオに尋ねれば彼は力強く頷いた。
「ああ、当然だ」
「ホントに?じゃあ僕も一緒に……」
「ダメですよ。危険なことなんですから」
「でも……」
ミシェルが止めても、マルクは行きたそうだ。見かねてレオが声をかける。
「あー、そういや、マルクには重要な任務があったんだわ」
「え?」
「フルカードさん?」
「俺達に村を案内してくれよ。腹減っちゃってさ」
「……うん。わかった。ごはんなら村の入り口にあるお店で食べれるよ」
「おう、サンキュな。行こうぜ、ミシェルちゃん」
「……は、はい」
案内してくれるマルクに二人はついて行き、村の入り口に近づいた。そのそばにあった建物の前でマルクは立ち止まる。
「ここはね、森で採れた野菜のサラダがおいしいんだよ」
「それは美味そうだな。大切な家族と一緒に食べたらもっと美味そうだ。な、ミシェルちゃん」
「そ、そうですね。私も祖父と食べる食事……好きでした」
「……僕、お父さんもお母さんも死んじゃったから………」
「マルクくん……」
「マルク……家族ってのは、なにも両親のことだけじゃないぜ。ミシェルちゃんが言ったように、じいさんやばあさんだって大切な家族だろ?」
「……うん、わかってるよ」
レオの言葉にマルクは頷く。
「よし、じゃあ次の任務だ。この村って武器屋ねえかな?」
「あるよ?」
「お、それなら今度はそこに連れてってくれ」
「いいけどお腹空いてるんじゃ……」
「ああ、話してる内に空腹忘れちまったぜ。ははは」
「ははっ。変なお兄ちゃん」
マルクは笑って歩き出す。
「じゃ、行こう武器屋!」
「おう。よろしくな!」
そう言ってレオもマルクの後について行く。
「……フルカードさん」
ミシェルはじっとその背を見つめる。
「さあ!武器屋はどこだ?」
「村の左側だよ!」
「二人ともすっかり仲良しですね」
元気よく駆けて行くレオとマルクの後をミシェルも追いかける。
「ここが武器屋だよ!」
食事処から左に進んだ所にあった建物の前でマルクは止まった。
「へえ、立派な店じゃないか」
「でしょ!いつか僕もここで武器を買うんだ!」
「……どうしてですか?」
「僕を育ててくれた、おじいちゃんとおばあちゃんを守りたいんだ!」
「……そっか」
「立派な考えですね」
「ああ。……でもなマルク。これだけは覚えといてくれ。たとえ守るためでも武器は武器。実際に振るう時が来たら、本当にそれが正しいかしっかり考え抜くんだ」
「……よくわかんないけど覚えとくね」
「ああ、それでいいさ。……じゃあ最後の任務、頼めるか?」
「あれ?なにも買わないの?」
「ちょっとな……村を走り回ってたら、気持ち悪くなっちまってさ……」
レオはそう言いながら胸を抑える。
「この村、薬屋とかねえかな?」
「え、それって……」
「頼む、マルク……このままじゃ吐いちゃいそうだ……」
今度はそう言ってレオが口を手で覆うと、マルク慌てた。
「わ、わかったよ急ごう。お兄ちゃん!」
マルクはレオの手を引いて歩き出す。
「お姉ちゃん!早く僕の家に!」
「は、はい!」
ミシェルはレオのやりたいことの意味がよくわからず困惑したまま、2人の後について行く。
薬屋の中へ戻ると、ドロテが入口で待っていた。
「おばあちゃん……」
「マルク……悪かったね。ひどい言い方して。じいさんのことを考えての行動だったろうに」
「……僕の方こそごめんなさい。おばあちゃんのこと、バカって言っちゃた……」
「いいや。あたしは馬鹿だよ。お前に余計な心配させるくらいなら、自分で採りに行けば良かったんだ」
「……その件なのですが、エミル草は私達で採ってこようかと」
ミシェルの提案に、ドロテはぽかんとした。
「ああ、こう見えてブレイズなんで」
「お前さん達……なら、頼めるかい?あたしはその間に裏手の森で、調合用のブレス草を詰んで来るから」
「森って……獣が出るんじゃ?」
「森は普段から散歩に使う程度にゃ安全な場所だし、今はブレス草が開花していてね。その香りを獣達はとても嫌うのさ」
「そうなんすね。じゃあ俺達は寂光丘陵へ行こうか」
「はい、そうですね」
そう言って二人は薬屋を出る。
「お姉ちゃん達!」
マルクが追い掛けてきた。
「丘へは村の奥から行けるからね!」
「案内ありがとう、マルクくん」
「……でもやっぱり僕も行きたいな」
「マルク……お前の任務はもう終わっただろ?だから次は俺達が頑張る番だ!大船に乗ったつもりで任せてくれ」
「……うん。わかった。いってらっしゃい!」
マルクは理解してくれて頷いたが、その後首を傾げた。
「あれ?そういえばお兄ちゃん、気持ち悪いのは?」
「え?」
レオは、ぽかんとしてから思い出した。
「あ、ああ、そうだな。なんかもう治ったぜ!」
「ふふ……」
おかしくなってミシェルは笑う。
「な、なんだよ」
「いえ、別に」
その声はまだ笑いを含んでいる。
「じゃ、丘での薬草採取と獣討伐、頑張ろうぜ」
「ええ、頑張りましょう」
二人はマルクと別れて、村の北門へ向かった。