エピソードまとめ

□レオ・フルカード
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ep.2 気高き者
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「うう……ぐす……ぐす……」


赤毛の小さな少年が、左手に本を抱え、右手は手を繋がれた状態で泣き歩いていた。

「いつまで泣いてるんだろうねえ、この泣き虫は」

そう言ったのは少年の手を繋ぐ、同じ髪色をしたお婆さん。

「だって、けものさん、かわいそうだよ」

少年は青い目を濡らして、お婆さんを見上げた。

「獣退治の英雄譚を読んでの感想がそれかい」

そう言われ少年は俯く。

「けものさん、悪いことしてないんだよ?ただ、伝説のけんがある、山に住んでただけなのに」

「それは英雄様にとって必要な物だったんたろう?」

「うん。まおーぐんもねらってた、すごいけんなの。こわいよね」

「怖い?カッコイイではなくてかい?」

「だって、岩とか切れるんだよ?」

「……やれやれ、いつも言ってるだろ?フルカードたるもの……」

「つねに気高くあれ、でしょ……。わかってるよ。……でも、こわいものはこわいんだよ……」

ぎゅうと、少年はお婆さんの手を強く握った。

「……まったく。誰に似たんだろうねえ、この子は」

お婆さんは優しい笑みを浮かべる。

「うう……ごめんなさい」

少年はぎゅっと目をつぶった。

「いいや。今のは、ばあちゃんが悪かったよ」

そう謝って、お婆さんは夕日が沈み出した空を見上げた。

「気高さには、それぞれのカタチがあるものだからねえ。レオにはレオだけの気高さがあればいいのさ」

「そんなの……あるのかな」

「あるとも。じゃあもし、レオがその伝説の剣を手にしたら、どうしたかったんだい?」

「え?」

少年、レオはお婆さんを見上げた。

「英雄とともに戦うのかい?魔王軍に渡すのかい?それとも……」

「えっとね………。そういう時、ぼくなら……」

少年は今まで違ってまっすぐ前を向いて答えたのだった。


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998Y.C. 森国シルヴェーア イーディス騎士学校

騎士学校の中庭に、リゼットはレオ、ユーゴ、セリアの三人を呼び出した。

「接収した砦周辺の調査任務ですか?」

「そうだ。バイヌセット砦といってな。先日、デュフォール達と落としたものだ」

数日前、リュシアンとヴァネッサを引き連れ三人で落とした砦の事だった。

「さらりと凄いことを……」

「そこを防衛ではなく、調査するのですか?」

ユーゴがリゼットに疑問を投げかける。

「少し、気になることがあってな」

「なんすか?」

「それは言えない」

「はあ?」

レオは間抜けな声を上げた。

「まあ、いいから行け」

「待って下さい!目的が曖昧では困ります!俺の気高い振る舞いが効果的に演出できないので!」

そうレオは力説する。

「なんの心配よ」

思わずセリアがツッコミを入れる。

「一理あるな」

「ないでしょう」

今度はユーゴがリゼットにツッコミを入れる。

「だが、フルカード。こうは考えられないか?目的が不明瞭な任務。それ即ち……」

リゼットはレオを見つめ少し貯める。

「気高さのフリースタイルと」

「なっ!」

リゼットは彼らが入学してからの数ヶ月で、すっかりレオの扱いが上手くなっていた。

「腕が鳴るだろう?」

「鳴りまくりっすよ!」

「鳴るんだ」

「では、頼んだぞ」

「了解です!気高く視察してきます!」

力強くレオは宣言した。

「気高い視察とは」

「……とにかく行ってきますね」

「ああ」


任務向かった三人を見送るでもなく、リゼットは背を向ける。

「……信じているからな、お前達」


【CHAPTER1 退屈な任務】
998Y.C. 森国シルヴェーア キトルール草原

「よし、行くぜ!ユーゴ、セリア!フリースタイルで気高く砦視察だ!」

そう言ってレオは元気に駆けていく。

「それ、具体的には、なにをどうするつもりなんだよ」

「高台から目標を見下ろして"ふっ"とか言うんじゃない?」

「そんな知能指数の低いことを?」

「するんじゃない?レオなら」

ユーゴとセリアはレオの後について行きながら、そんな話をする。


〔道中会話〕
「それにしてもさっきのリゼット教官……。完全にレオで遊んでたわよね……」

「僕達は完全に、それに巻き込まれるカタチだよね」

「なんか釈然としないけど、いつものことだから全然いいわよねー」

「うん。いつものことだから全然構わないよね」

「お前らなあ……」


〔道中会話〕
「……んで、今回の目的地のパイヌセット砦って結構遠いんだっけ?」

「うん。ちょうど中間地点辺りに、ポワトゥー駐屯地があるから、そこで一旦補給を受けさせてもらおうか」

「了解」


〔道中会話〕
「ちなみに、俺の気高さが発揮できそうな地域は通るか?」

「どういう地域よ、それ」

「ほら野盗が暴れ回るトコとか。帝国軍の潜伏場所とか」

「レオは連邦領をなんだと思っているんだよ」

「そうそう。気高い活躍を望むにしてももっと夢のある、巨大な獣退治とか、伝説の剣探索とかにしときなさいよ」

「そういえば子どもの頃、そんな本を読んだ気もするね」

「それ私も読んだかも。英雄が、魔王倒しに行くやつ」

「懐かしいね。レオ辺りは好きそうな話だけど……」

「そ、そうだな」

「あ、違うわよ、ユーゴ。昔のレオは凄く優しくて……」

「あー、あー!」

「確かにそうだったね。優しい分臆病で泣き虫で……。いつもアデールさんに手を引かれてたっけ」

「ええ。とっても厳しい方だったけど、意外とレオには甘い部分も多かったものね」

「可愛かったからね……。あの頃のレオは」

「引っかかる言い方すんな!」

「ま、レオに甘いのは今の私達だって一緒だけど」

「どこがだ?」

「だって、普段から気高さという名の無鉄砲さを、なんだかんだで許してるし」

「そういう意味で言えば、レオの本質は今も全然変わってな……」

「む、無駄口は叩かない!ほら、任務に集中集中!」

「はいはい」

「やれやれ」
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