エピソードまとめ

□アウグスト・ヴァレンシュタイン
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ep.2 絶望の種
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「ちょっと待って」

丘の手前でラプラスが止めた。

「あれは……精鋭兵ね……」

ふたりはひっそりと物陰に身を潜める。

「ったくだりい仕事だなあ」

杖を持ったローブ姿の兵が鎧を着た剣士の兵にそう話しかけた。

「そうか?俺は嫌いじゃないぜ。民家からたんまり盗って来られるしな」

「相変わらずだな……。にしてもいるか?そんな髪飾り」

アウグストはその言葉につられ、鎧の兵が手に持っているものを見た。
赤いリボンの髪飾り、それはルチナの髪にいつも付けていたものだった。

「こいつはうちのガキに土産だ」

アウグストはゆっくりと立ち上がる。

「ひっでえ、父親だな!あっはっは!」

笑っている彼らの元へアウグストは歩み寄る。

「……ん?なんだ、お前………」

「ちょ……なにしてんの?」

自ら見つかりに出たアウグストにラプラスは驚いている。

「無駄死にはしないんでしょ!?」

「……ええ。本来であれば速やかに撤退すべき場面です」

「じゃあ……!」

「ただ…………私にも"譲れないもの"はあるのです……。その髪飾りだけは返していただきます!」

ギッ、とアウグストは杖を構え帝国兵たちを睨みつける。

「もう!なんでこうなるのよ!」

「ラプラス、大丈夫ですよ」

「なにが!」

「彼らが本陣に連絡を取る前に皆殺しにすればいい……。そう言ったのは貴女でしょう?」

「あんた馬鹿でしょ!こいつらはその辺の雑兵とは違うって……」

「同じですよ……。殺してしまえば皆同じ。マナに還るだけですから……」

「はあ……仕方ないわね……。だるいけど付き合ってあげるわよ!」

そう言ってラプラスは弓を構えたるのだった。

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「俺は……死ぬのか?どうして……」

地に倒れた、鎧の兵がそう呟いた。
ローブの兵の方はもう息もない。

「貴方のくだらない人生が終わる理由ですか?簡単ですよ……髪飾りを拾ったからです」

そう告げてアウグストは容赦なくトドメを刺し髪飾りを取り返した。

「えっぐ」

「なにか?」

「なにも。っていうかそろそろ見栄張るのやめたら?」

「なにが……ですか?」

「今の戦闘で力使い果たしたでしょ?倒れる直前なのバレバレなのよ」

「……見抜かれていましたか」

「ええ、だから今日のところは引き返しましょう?」

「いえ、ここまで来たのです。最後に少佐の顔を拝みますよ」

「あなたねえ……!」

ラプラスは大きくため息を吐く。

「………ったく、とんでもないのを共犯に選んじゃったわあ」

「それは……お互いさまですよ………」

そう言いながら、先に進んだ。
奥には、文字通り高みの見物をしている男が1人居た。

「……あれよ。あのデブが今作戦の現場指揮官。クレー少佐」

「あれが………」

アウグストは身を潜め、男を目に焼き付けた。

「ふ……、それにしても……、獣に食われるとは、なんとも惨めな死にざまだな」

クレーの口から放たれたその言葉に、アウグストは先程見た妻子の姿をフラッシュバックさせた。

「あ……ああ………。殺す……あいつを……今ここで……!」

アウグストはそう言って立ち上がる。

「やめなさい!あなたの復讐は……それ"だけ"で済むものじゃないのよ?」

「どういう……意味です?」

アウグストは振り返ってラプラスを見る。

「確かに作戦の現場指揮官はクレーよ。けど、獣を意のままに動かす薬と装置を作って実験作戦を立案したのは別の人間だし、この村を実験対象に選んだヤツもまた別」

「……なん……だと」

1人では終わらない復讐の対象を聞き、アウグストは絶望した。

「……もっと言えば、作戦の実行を最終的に採決したのは……」

「……したのは?」

「……皇帝……なのよ?」

「あ……ああ………」

アウグストは膝から崩れ落ちた。

「あー……あとついでに………。言われるがままに失敗作の薬を投与した実行犯のマヌケ……。……このアタシのこともぶち殺してやらないとね」

そう言ってラプラスは自身の胸元に手を置いた。

「ラプラス、貴女……」

黙っていれば分からなかったであろうことをわざわざ口にしたラプラスに驚いて顔を上げる。

「……なーんて。とにかくわかった?今は怒りに任せるより"その先"を睨んだ方がいいわ」

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〔エピローグ〕

「……よく、わかりましたよ」

そう言ってアウグストは立ち上がりラプラスから背を向ける。

「……私が敬愛していた帝国など、この世界の、どこにもなかった……と」

「……なら、これからどうするの?」

「信頼は……裏切られた。……ならば復讐で報いましょう。たとえその相手が皇帝……この帝国、そのものであろうと」

「つまり、あなたは……」

「……ええ。この国を潰します」

復讐の炎をその身に宿し、アウグストは前を見据えるのだった。


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〔次回予告〕
次回、テイルズオブルミナリア
エピソード アウグスト

ep.3 消えない炎

私は上に行きます。
復讐の炎に身を焦がしながら。
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