巣作りオメガの愛情巣作り
□運命の番、巣ごもり中にて
1ページ/2ページ
佐伯礼司には運命の番がいる。
年上の可愛いオメガで名前を水原伊織、結婚したらどちらの苗字にしようかと相談中だ。まだ籍は入れていないけれど幸せの瞬間風速は今最大、一緒に暮らし始めて一週間、何の問題もない筈だった。
伊織の巣作りがもはや、巣ごもりなのではということ以外は。
礼司の帰宅が遅くなったのは広報営業部に移動したからで、思いの外デスクワークも増えた。
打ち合わせの結果を踏まえての翌日のタスクをリストアップし、製品の発売記念イベントに登壇依頼されていたのでそのメールを返信……、やることは山積みだった。パソコンを閉じると時刻は九時。
急いで夕飯も食べてから帰宅したが時計の針は十時を回りそうだ、伊織は寝室に行ってしまっただろうか。諦めの境地で寝室のドアを開けると案の定、ベッドが大変なことになっていた。
「わっ! またすごいことになってる。伊織さーん」
ベッドの周りにも自分の衣類が散乱している。目の前に眠る年上のオメガが礼司の運命の番だ。
ベッド中に散乱した自分の衣類。普段着ているお気に入りのものばかり持っていかれて、挙句の果てには下着や靴下まで毛布の丸みの中に仕舞い込まれている。
「ただいま、伊織さん。すいません遅くなっちゃって」
そう言いながら少しだけ顔を出しているそのほっぺたにキスをした。ふにゃ、と伊織の表情が嬉しそうに微笑むのが可愛らしい。でも、毛布を引っぺがそうとするのには唸る。
ウウ、とまるで威嚇するかのように嫌がられて礼司はとてつもなくショックだった。
「伊織さんっ、俺が帰ってきたから! どうせなら俺を抱っこしてくださいよっ」
「う〜ん」
伊織は寝起きがとても悪い。
こんなことくらいで起きる筈はないか……と諦めて礼司はそのまま風呂に入り、寝間着姿で巣ごもりしている伊織の傍で礼司も眠った。
伊織は悲しいことに礼司にまったく目もくれず、ずっと礼司の衣類を抱き締めていた。