main 短編

□囚われのキミ
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無駄に華美な部屋の中で
窓の外をぼぅっと眺める
相変わらず烏が多く、変わり映えしない景色

ここに連れてこられてどれくらい経ったかもう忘れた
最初こそ何度も逃げ出そうとしたけど、今はそんな気すら起きない
ただただ平凡な時間が過ぎていく



「…風邪ひくぞ、雛菊」
「あ、紅。おかえりぃ」



声の聞こえた方に顔を向けると
呆れた様子で立っている紅髪の彼
外出から戻ると必ず私のところに寄ってくれる優しさを持っていて、私の中で妖怪に対する印象が変わったのは紅のおかげだろう
そんな彼は私の格好を見て大きくため息をついた



「またそんな薄着で…風呂上がって髪も乾かして無いだろう」
「だぁって分析データがまとまんなくって…ホント人使い荒いよ你博士の奴…」



バサ、と手にした資料を机に投げ置く
この城で存在するもう一人の人間、你博士のスカウトという名目で連れてこられた私も一応は化学者の端くれだ
こんな状況で生かされているということを考えれば、まだ私の利用価値は残ってるんだろう
それでもいつ処分の対象になるかは分からないけど



「そっちはどうだった?噂の三蔵一行さん達」
「……」
「ごめん、もう聞かない」



ジト目で睨まれたため大人しく食い下がる
牛魔王様の蘇生に必要な経文を奪い取るために独角兕さんや八百鼡さんとよく出かけているみたいだけど、中々苦戦を強いられているようだ

三蔵法師って手強いんだろうなぁ
なんか強そうな名前だし
そんな事を考えていると紅が私の隣に静かに座った



「どーしたの?今日は甘えたさん?」
「……そうかもしれない」



こてん、と頭を預けてくる
私は掛けていた眼鏡を外して両腕を紅の大きな背中に回した



「よしよーし。頑張ったね、紅」
「…ん」



頭を撫でるとさらに身体を預けてきた
なんだこの可愛い生き物は



「雛菊」
「なぁに?」
「…………好きだ」



ぽすん、とベッドに押し倒されたかと思えば優しくキスしてくれる
それに応えるように彼の舌に自分のを絡ませた
静かな部屋に、私達の音が響く
唇を離して見つめ合う



「ふふ、」
「どうした?」
「お兄ちゃんのこんな姿…李厘ちゃんがみたらビックリするね」
「……五月蝿い」



照れているのか目線を外す紅
その姿が堪らなく愛おしくて



「私、本当に紅に会えて良かったよ」



伝えると一瞬驚いた顔をして
直ぐにまた優しい笑顔になった



「俺も 雛菊に出会えてよかった」



そう言って再び唇を合わせる
紅のあったかくて気持ちいい手が、はだけたシャツの中に入ってくる



「……まって、電気消したい」
「雛菊の感じる顔、可愛いから見ていたい」
「〜っよくもまぁそんな恥ずかしい台詞を…」



例えこの関係が許されるものでなくても
この人が今の私の生きる意味
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