main 短編

□これって所謂…?
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その夜私は友人と雀荘に来ていた
ジャラジャラと響く牌の音に、否応なくテンションは上がる



「うっわ雛菊。勝ち逃げする気?」
「なーにいってんの、もっと搾取してやるわよ」



意地悪く笑うと友人は苦笑い
元々運はいい方だし、今日は空いているからマスターと私達のみの三面打ち
これで上がれないわけが無い
タバコを吸おうと胸ポケットから取り出すが、その中身は空になっていた



「煙草買ってくる」
「うーい」



ついでに友人の分も頼まれ、財布片手に店を出た
角のタバコ屋はまだ開いていたはず…
そう思いながら夜の街を歩いていると案の定声を掛けられる
この辺りのこの時間に女ひとりで歩いてるなんて、確実に「今夜のお相手探し」に見えてしまうだろう



(あーどうしよう鬱陶しいなぁ)



いつも大概二言三言断れば引くのに今日のはヤケに執拗い
両脇を固められ背中には壁



「せっかくだから一緒に飲もうよ?」
「だから友達待たせてるって言ってんじゃん、無理」
「いーじゃんその友達も一緒に、ね?
ほら決定〜」
「ちょっと…!」



ぐい、と腕を掴まれ咄嗟に振り払う
その腕が相手の顔に直撃してしまった



「あ、やば……」



逃げ出そうと一歩踏み出すけど再び壁に押し付けられてしまった
その衝撃に声が漏れる



「おい脚押さえとけ」
「は!?ちょっとふざけないで…!!」



生憎この路地は人通りが少ない
声を出しても無駄なのは分かりきっているため、その力を全て抵抗する腕に込める



「チッ、暴れんなよ。すぐにヨくなるから」
「なってたまるか!離せ強姦魔!」



バコン、と男の顔面に拳がめり込む
一瞬怯んだ隙に逃げるもジャケットを掴まれて地面に叩きつけられた
一応喧嘩の仕方は知っているようだ



(やばい…ほんとに犯される……)



男の手が服の中に入ってきて
もうダメだと覚悟を決めると同時に視界がふっと暗くなった



「ホテルにも誘えないような奴が、手ェだしていい子じゃあないの」



低音で重く響く声
私に跨っていた男はあっという間に吹き飛んでいた
頭上から聞こえた声の主を見ると紅い長髪にサングラス、あと長い足



「大丈夫〜?あんまこの辺1人で歩いちゃ危ないよ?」
「あ、りがとうございます…」



ふぅー、とタバコの煙を吐いている姿に
私はある噂を思い出した



「……ごじょう、さん?」



そう呟くと、驚いた様子を見せる彼




「なに、俺ってもしかして有名人?」
「あー…まぁ、お噂はかねがね……」



紅い髪の男
つい先日賭博で食ってる知り合いがボロ負けしたと言っていた
特徴的に彼がそうなんだろう



「だよなぁ。君みたいな美人さん、会ってたら忘れるワケねーもん」
「ふふ、調子いい」
「へぇ、笑った顔も可愛いね。名前なんて言うの?俺は噂の悟浄さん」



言葉選びや雰囲気から女慣れしている事は伝わってきた



「雛菊です。悟浄さん、ありがとうございました」
「ん、雛菊チャンね。ちなみに今からの予定は?」



煙草と、雀荘で友人を待たせている事を伝えると悟浄さんは頭をかいた



「やっぱ美人さんにゃ先約がいるんだね。また誘ってもいい?」
「ええ、毎週あそこの雀荘に居ますし誘いに来てくださいね」
「はは、了解っ じゃ、気をつけてね〜」



ひらひらと手を振りながら去る後ろ姿に
来週はもっと女らしい服装をしようなんて、柄にもなく思ってしまった
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