main 長編
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だんだんと血の匂いが濃くなってきた
慣れた鉄の臭いではなく、甘い桃の匂い
かなりの量の血を流していると分かるほどの濃さに気持ちだけが焦る
「……見えた、あそこだ!」
悟空が指す先には小さな小屋と人だかり
村長だけでなく宵風さん、それに妖怪もいる
その中心にいるのは腹部から出血している雛菊さんの姿で
「やはりアイツが村長に漏らしていたのか」
今回の計画を知っているのは彼女と僕達以外に宵風さんしかいない
わざと嘘の合流地点を教えたのだろう
近付くにつれ会話が聞こえてきた
「ああ、だが日付が変わるまでは殺すなよ。今はただの性欲処理にしかならんからな」
下衆な笑い声が響く
堪らず悟浄の錫杖が雛菊さんの腕を掴む妖怪の頭を落とした
「よく分かった。ここがクソ野郎共の村って事がな」
三蔵の声にも怒気が篭っている
村長をはじめその場にいる全員が僕らの登場に焦った様子を見せているが、何よりも先ず倒れ込む雛菊さんを受け止めた
「……はっ、かいさん」
小さな声で確かにそう言った
彼女を支える腕に力を込め、治療のため少し離れた場所に降ろす
力なく笑っているがその眼には涙が今にも溢れそうだ
「……」
出血量は多いが命に関わるものではなさそうで、とにかく傷を塞ぐことに集中する
その間にも三蔵達が妖怪を一掃していた
それを見て驚いている雛菊さん
「傷は塞がりました。アッチは大丈夫ですよ、殺しても死なない人達ですから」
「……あ、りがとうございます」
微笑む雛菊さん
その姿が花喃に重なる
「……八戒さん?」
「あ、いえ。どういたしまして」