main 長編

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闇が世界を包む
先程まで煌々と輝いていた月も、雲に隠れてしまった



『眠れないのか』



森羅が私に問う
ごろんと寝返りをうち、私は小さく唸った



「宵風は私を逃がしてくれるって言ってたけど…無理なのは分かってる。あの村長が簡単に逃がす筈がないもん」
『だろうな。俺の記憶の中でもアイツはずば抜けてクズ野郎だ』
「500年以上の記憶がある森羅さんが言うなら、そうなんだろうねぇ〜」



きっと私は二十歳の誕生日を迎えたその日に妖怪に引き渡され、犯されて喰われるんだろう
いつか来ると思っていた日が
もうそこまで迫っている



「ねぇ森羅」
『なんだ?』
「…今までの森羅万象の人ってどうだったの?二十歳超えても幸せに生きてる人っていた?」
『……雛菊が一番長く生きてるんじゃねぇか』
「はは、そっかぁ」



それは歴代の森羅万象が二十歳を迎えずして喰われてきたことを暗に示していた
そりゃ肉を食べるだけでも十分な効果があるんだから第一解禁日で終わり、なんだろう
だったら五年も長く生きられた私は幸せな方なのかもしれない



「………」



そこで、少しの物音がした
屋根から?こんな夜遅くに野鳥の訳ない



『気をつけろよ。複数いるぞ』



森羅の言葉に枕元から小刀を取り出す
護身用として宵風に渡されていたものだけど、自決以外に役立つ時が来るなんて
息を潜め扉の様子を伺う
いやでも屋根から音が聞こえたということは天窓から入ってくるのか?
ぐ、と刀を握る力を強めた



『俺が変わろうか?』
「大丈夫…と思う。いざという時はお願いね」



森羅の力を使えば一捻りだろうけど
私はそれを断った
だてに五年間、大人しく蔵に閉じ込められていた訳じゃない
しかし踏み入ってきた影に刀を突き立てようとする寸前で腕を掴まれてしまった
雲が隠していた月が現れ、その人物を照らす



「……っ、」



月の灯りに反射したのは、声を失うほどの綺麗な金の髪だった
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