覚醒

□湖面に映る三日月
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 その人はひなこを見て丁寧な挨拶をした。異性慣れしていないのかどことなく猫かぶりっぽい大人しさが見えたが、目下の者に対する態度としては余るほどに恭しかった。この男孝支はひなこや潔子に対して実によい気配りがあった。てきぱきと少ないながらも一番多くの負担を背負っている。

そのうちやむを得ない用事で潔子が席を外したので、残された二人の間には気まずい空気が流れた。互いの素性も知らないままカゴやタオルなんかを運んでいく。しばらくの無言が続いたあとひなこは何気ないようなふりをして口を開く。


「あの、月島蛍は元気にやっていますか」
「月島の友だち? 普通にやってるように見えるけど……」


 初めはてんで心当たりのない顔をする孝支だったが、やがて蛍が宇宙波感知者であることを思い出したかのような素振りをした。最近はCWSの入部を制限する部活動も増えている。幸い烏野高校男子バレーボール部は顧問の寛容な方針により入部が許可されていた。

入部を制限する行為が差別的であるという声もあるが、CWSがチームに所属することで一定のハンディキャップを抱えることもまた事実である。孝支は青葉城西などいくつかの高校が入部制限を設けているらしいことを呟いた。


「難しいよな。ウチは母親がCWSなんだけど……人によっても対応は変わってきちゃうし」
「ご家族が?」
「脚の筋肉を患ってるんだよ。街中で感知すると痛みで動けなくなるから気軽に外出できなくて」


 まあ、CWSの入部制限っていうのも世間的に推奨はしてないけど否定もできないんだろうな。どういうポリシーでやっていくかも各々で違うから。それでも俺らは月島たち後輩がやり易いように努めていくし、そこまで大きな心配はいらないと思うよ。
孝支は風をつれたように笑った。春めいてきらきらと眩しかった。



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