覚醒

□うすやみの鳳仙花
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 同じ烏野高校に進学したとは言えバレー部に入部した蛍や忠と帰宅部のひなこでは登下校時間が噛み合わないので、こうして三人並んで歩くのは入学式のときから実に二週間ぶりである。男女であるという点でも成長するにつれて共に過ごす時間は幼い頃より減っていた。


「で、バレー部はどうだった?」
「別に普通」


他に入部する一年が二人いてさ、ソイツら滅茶苦茶だったよ。蛍が多く語らない代わりに忠が答える。ひなこはバレーを嗜まない女だが二人がバレーしているのを見るのは好きだ。特に蛍が兄の件について塞ぎこんでいたのを人一倍気にかけていた身として彼がバレーを続けることに安堵していた。

CWSは特異の部位によってスポーツを断念せざるを得ないケースが存在する。実際にCWSとなったプレーヤーが涙を飲んで引退することも数知れず。不安定に痛みがほとばしり、時に視覚が奪われることさえ構わず、歪みや諦めを抱えながらも蛍がバレー部に所属したのは蛍が未だにバレーボールを愛している何よりの証拠だった。


「ツッキー薬は?」
「夜中に飲んだばっかだからまだ飲めない」


 現在日本では北海道に四つ、その他都府県には一つずつCWSを取り扱う専門の科を持つ病院が存在している。CWSの症状はそれぞれで違うので長い診察の時間をかけながら一人ひとりに合った薬や手術を施さねばならない。また、CWSは医療機関を利用する回数が一般より多いので保険が適用され諸々の費用が無料となっている。


「今日も忠たち部活あるの?」
「うん。ひなこちゃんは塾?」
「うん。ホントは、あんまり行きたくないけどね」


蛍は病院が嫌いだ。それは恐れなんかからくるものではなく、診察と併せて治験を行わねばならないからである。勿論任意ではあるし蛍もやや乗り気ではない様子を見せていたが、他のCWS治療薬開発の助けとなるかもしれないという一片の道徳的なこころに折れたのだった。



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