三流悲劇に喝采を!【灰羽リエーフ】

□毒蛾
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 みんなの休憩時間が終わる前までには見つけたい。時間を惜しまずにはいられない。しかしマーカーは見つからない。あーあ。何してるんだろうな、私。何を大切にして動いているんだろう。薄暗い倉庫、ひとりになってふと静止する。ここに照明器具はないので光源は扉から入り込むものだけだ。奥のほうまで来たのであまり光はとどかない。


「ななみさん?」
「っ、り、リエーフ……? なんでこんなとこまで……」
「や、シバヤマが聞きたいことあるみたいだったから探しに」


 突然光が遮られたのに驚き、扉へ視線をやると不思議そうな顔のリエーフ。逆光のおかげでその姿はぼんやりと薄暗く見える。狭い空間のなかで彼の声がぼやぼやと反響する。リエーフは台車やマットなんかを軽々とどかしながら目の前までやってきた。

私はなんだか不思議な感じがして、マーカーを探してるから少しだけ待ってほしいという旨を伝えたのだがリエーフが退く気配はない。気にせず周囲を見渡す。本当にどこへやってくれたんだ。棚のほうまで足を運ぶ。金属製のそれは凍てたように冷たかった。


「これじゃないですか?」


 ゆらり。
 ……リエーフはいつの間にか私の真後ろに立っていて、前と後ろ、棚と彼に挟まれた状態はなんだか窮屈だ。そのままマーカーコーンを取ってくれた訳だけれど、首の横に伸ばされた腕で横まで塞がれた。背筋が震える感覚がして思わず振り返る。囚われて逃れられない。

何故かリエーフは退かない。棚に腕をかけたまま、私を逃げ場のない状態にしたまま見つめつづける。倉庫は冷えている。狭い空間に息づかいさえ響いていく。黒尾さんの言葉がリフレイン。あんま誤魔化し続けてるとどうなるか分かんねえぞ。知ってました。知ってましたよそんなことくらい。この冷えた場所で、リエーフの視線だけが熱をこめていく。
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