三流悲劇に喝采を!【灰羽リエーフ】

□空虚を食べる
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「……これ部活の紙」
「ん、ありがとう」


 今日は業後になって初めて会話をした。提出用紙を渡すとそのまま何も言わずそそくさと部活へ向かう孤爪。周りの友達もきょとんと拍子抜けをしている。たぶん、私がバレー部のマネージャーなのを知っていても孤爪がそのバレー部だってことは知らなかったのだと思う。


「え、アイツってバレー部なの?」
「そだよ。セッターってポジション」
「全然運動できそうに見えないけど」
「てか誰かと話してるとこ自体あんま見たことないよね」


口々に孤爪について語りだす友達たち。別に何かされた訳ではないけど、クラス内での無気力さと無愛想ゆえの感じ悪さに少し心証を悪くしていたらしく言葉はこころなしか刺々しい。彼がどこまで離れているかも分からないのに軽率なことしないでほしかった。どうか気分を悪くしていないことを願う。(彼も彼で卑屈っぽいので心配は要らなさそうだが)

なんとなくバレー部の話題に移る。私はもうここに居る気分ではなくなったのでここで別れると言って手を振った。頑張ってね、と応援の言葉と笑顔。彼女たちも悪い人間ではないのだ。ただ側にいてしがらみに囚われるのは、ときどきに煩わしいというだけで。

 ああ、今日は何をすべきなんだろう。一人で歩きながら考える。やっぱりリエーフのことが気にかかるな。今はなんとかやっていっているけれど、このままでいいのか。そもそも何かの拍子で記憶が戻るなんてことはあるのか……。


「なーに思い詰めてんの」
「んえっ」
「お、かわいい声出んじゃん」


……後ろから黒尾さんが来ていたことにまるで気がついていなかった私は、いきなり頭を鷲掴みにされて声をあげた。バレーボールを掴めるほどの大きな手。もっと普通に声をかけてくれればいいのに。心の中で黒尾さんに悪態をつきまくりながら体育館へ向かう。


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