覚醒
□どうか清くいられるように
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「俺は二口堅治。伊達工業の二年」
「……烏野高校一年の三坂ひなこ」
「お互い難儀なとこに入っちまったよな」
存外堅治という男はひなこから見てマトモなように感じられた。他の講師をはばかってか小声になりながらこのへんてこな塾に苦言を呈している。ひなこもそれを否定する気などは起きず見つからないように頷く。彼の教え方は丁寧で、どことなく地頭の良さを窺うことができた。
話を聞くかぎり堅治がこの塾にやってきたのは最近のことらしい。それでも堅治はひなこよりはうまくやっているようで他の講師に声をかけられた際にていの良い笑顔を張りつけている。ひなこは堅治ほど器用ではないので笑顔がどこかぎこちない。
「ここはonlyあるからthatで」
「ありがとう。……堅治くん背がおっきいよね、何かスポーツでもやってるの?」
「こう見えて現役バレー部」
別に普通に運動部に見えるよ。ひなこはおかしそうに笑った。しばらく二人はシャープペンシルを走らせた。とは言っても一年のひなこが二年の堅治に教えられることなど少しもなかったので、ひなこが時折堅治の世話になるだけだ。なんだか申し訳ないような気持ちでいると堅治はけたけた笑うばかりだった。
「しょげてる顔するとブスになんぞ」
「いいよ別に。元より端正な造形なんかないんです」
「はい敬語使った! マサハルセンセー!」
「堅治くんってそういうとこ大人げないよね」
気がつくと堅治がなにかを差し出してきていたので、ひなこが素直に受けとると砂糖につつまれたグミのようだった。食べるよう促され口に入れると天地がひっくり返るような酸味に襲われ、平然とそれを食べ続ける堅治を尻目にひなこの小さな悲鳴が響くのだった。
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