三流悲劇に喝采を!【灰羽リエーフ】

□愛の存在証明
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 次の日の昼休み黒尾さんが教室にまでやってきた。ひとときだけ教室じゅうの視線が彼へと集まる。何気ない顔で雑談を再開した別グループの女の子たちも、ちらちらと密かに黒尾さんへ注目してるのが窺えた。お弁当を半分ほど残したまま立ち上がり扉の前で佇むあの人へ歩いていく。

のろのろ遅れてやってきた孤爪と並びおとなしく聞く姿勢をとる。内容は存外大したことのないもので、他の部活の大会の都合で体育館が使えなくなってしまったらしい。屋外での筋トレ等今日の練習メニューを伝えられて素直に頷いた。私はできるだけ平静や悠然を意識していた。

 黒尾さん越しに廊下を通る他のクラスの女生徒が見える。彼女らは後ろすがたの彼を見つけると口もとに手を当てながら速度を落としてゆく。後ろ髪を引かれるように自らの教室へ戻ってゆく。去り際、心なしかちがう目つきで私のことを見据えながら。


「ん、なんかあったか?」
「いえなにも」


かしこまって笑った。黒尾さんは二年のなかでもそこそこ話題になるほど名の通ったお方で、彼に慕情を抱く人間も少なくない。だからあの人の側に立つならば虚でいなければならない。そして同時に、私は男子バレーボール部のマネージャーとして誇っていなければならない。

不適合と思われる態度を取ってはいけない。男子バレーボール部に相応しいのだと第三者に思わせなければならない。鼻につくような嫌味くささや生意気さはなくて、同時に堂々としてる、言わば上の女に。他者に排斥され虐げられることのないように。


「じゃあまた部活んときに頼むわ。……藤崎ちゃん、リエーフのことだけど」
「……?」
「あんま誤魔化し続けてるとどうなるか分かんねえぞ」


 対処は早めにな。
 気がついていた。このままではいられないということなんかには。そうかもしれませんね。脆弱な嘘を誤魔化して笑う。その誤魔化しが後々自分の首を絞めることも知っていた。笑う友達の声が頭に響いていく。


「黒尾せんぱ〜い! またバレー部見にいきますね!」
「春高おめでとうございまーす!」
「おう、あんがとな」
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