三流悲劇に喝采を!【灰羽リエーフ】

□いつだって酩酊状態
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「レーヴォチカったらね、ななみちゃんのことをよく話すのよ」
「そうなんですか? なんだかお恥ずかしいです」


 秋の風は冬を呼び込むように冷えていく。それどころか、秋風は冬に吹くものより鋭いような気がする。私は自らの頬がチリチリと乾燥して痛むような感覚を覚えながら、行儀よい娘のように笑ってみせた。

放課後に寄っていた書店からの帰りにアリサさんと出くわした。少し話せないかしら、と言われ素直に駅前のベンチで腰をかけている。奢っていただいた缶ココアをカイロ代わりに握りしめていたものの、もう熱いと表せるほどの温度は残っていない。


「あら、照れなくたっていいのよ。それに……ホラ、こんな状況でしょう? あの子にとって安心できる人がいるというのは、とてもよいことだわ……」
「アリサさん……」


彼女は何を思いながら生きているのだろう。アリサさんはこの話にいたるまでもしきりにリエーフのことを話したり聞いてきたりしてきた。あの子はうまくやっているか。何か変わったことはないか。それが焦りや必死を隠すようにしている彼女の努力が窺えたが、ひとりでは抱えきれないのだろう。

アリサさんのほたる硝子の目がこまやかに揺れて輝いている。それが涙膜と気がつくのに時間はかからなかった。やがて一筋の涙がアリサさんの頬を滑り落ちて、それに自分で気がついたのかほそ長い指先でぬぐうと彼女は頼りなく笑った。

 違うのよ。レーヴォチカの面倒を見ろと言いたい訳ではなくてね、ただ、ほんのすこし、ときどきでいいから、気にかけてやってほしいの。家でよそよそしいあの子を見ると針を飲むように胸が痛むから……。


「そうだ、糖みつのクッキーを焼いたの。今度持ってくるわね。そのときは茜ちゃんも呼びましょう」
「はい。是非いただきます」


 改めて見るアリサさんの横顔は当たり前ながらにどこかリエーフと似ていて、素敵な血が流れているのだなあと、ひとり温もりの消えたスチール缶を握りしめた。


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