三流悲劇に喝采を!【灰羽リエーフ】
□猫は歌わない
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「あ、起きましたか。おはようございます」
「芝山。……起こしてくれたって良かったじゃん」
「ぐっすり寝てましたので。それに灰羽くん何度も話しかけてましたよ」
そんなこと全然気がつかなくて、そんなにも深く寝てしまったのかと自責がじわじわと押し寄せる。不格好は嫌いだ。クラつく頭をどうにか振り切って、まだ声をかけていない黒尾さんのもとへジャージを返しに行く。
「あらァ起きたの藤崎ちゃん」
「……部活中に寝て、すみませんでした。ジャージありがとうございます」
「おう。いいってことよ」
「怒らないんですか」
「いつも頑張ってるデショ。ま、あんま無理しないようにな」
日頃の行いというのは、こういうときに効力を持つものらしい。とはいえもうやらないようにしないと。心の中で反省を繰り返しながら芝山がやってくれていたボトル片付けを受け継ぐ。そのときは(まだ眠りから覚めていないのか)、なんだかぼんやりとした心持ちだった。
黒尾さんや芝山にやたらリエーフが騒いでいたことを伝えられたが、私は彼の保護者という訳ではない。しかし彼があんまり普通にしているから忘れかけていたけど記憶ソーシツなんだっけ。元気に見えるけど不安なところもあるんだと思いますよ。芝山に言われてつい黙る。
そりゃそうか。いくらリエーフが底抜けに明るいからって、周りの人間が分からないこの状況が平気な訳じゃないだろう。
「いた! おはようございます」
「リエーフ……」
「今日リベロの人に滅茶苦茶シバかれたんですよ〜……」
そう言ってへなへなと正面から私の肩口に顔をうずめるリエーフ。彼の体重を支えきれず、壁際に立っていたのが幸いかそのまま背中が壁へもたれかかる。彼のやわらかな髪が耳に当たってくすぐったい。もはや声すら出ない硬直状態。隣の芝山も驚いた顔でボトルを落としそうになっている。リベロの人は、夜久さんね。自分でも的はずれな言葉しか出てこない。
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