三流悲劇に喝采を!【灰羽リエーフ】

□恋の凝固点降下
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 今日はなんとなくつまらなくて、スマホゲームにお熱な孤爪の隣で座り込んでいる。仕事は全部終わったし私にだって休憩時間くらいは与えられてしかるべきだ。普段休憩時間にまでせかせか動いていたぶん、今日珍しく動かない私にも部員は大きなとがめをしてこない。それどころか心配してくるくらい。

体調悪いのかと夜久さんに飲み物を渡されて笑う。体調悪い訳じゃないんですけどね。なにかを言うのも面倒で笑う。こういうとき孤爪の側に居るのは楽で良い。彼は私のことなんか少しも気にかけないし、詮索を嫌う身としてはありがたい。


「大丈夫ですか!」
「うん……へいき」


死なないでくださいなんておろおろと右往左往するリエーフのことさえ忘れられれば、穏やかな時間になっていたとは思うのだけれど。死なないよ。元気がないとか落ち込んでるとかではなくてただ眠たくなってきているだけなの。あまりの質問攻めを強制シャットアウトするべく膝を抱えて鼻先をうずめる。隣からゲームの音が聞こえる。

横目でちらりと見ればこの騒音まがいの心配を孤爪もいささか迷惑そうにしながら液晶を見つめていた。しかし彼のことを気遣えるほどの余裕が自身にある訳でもなく、申し訳ない気持ちを若干に抱えながら、リエーフに大丈夫だからと告げたのを最後に意識はうすら闇へ誘われていく。

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「そろそろ起きたら」
「……こ、づめ」
「もう片付け入ってるよ」
「え、うそ……!」


 失態だ。孤爪の言葉に思わず飛び起きるが勢いが良すぎたのか目眩がしてまたしゃがみ込む。寝たのは私の過失だけど誰か起こしてくれたって良いじゃないか。主に休憩が終わるまでは私の隣に居たであろう孤爪。いつの間にかかけられていた音駒の赤ジャージを手に取れば黒尾さんのものらしい。

慌てて皆に謝りに行ったが責め立てられることはなくいつもお疲れさまと労いの言葉をかけられるばかりだった。(あまつさえ猫又監督まで)


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