三流悲劇に喝采を!【灰羽リエーフ】

□恋の凝固点降下
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 バレー部に居るのは好きだ。私の他に女子はいないし、男子は男子で唯一の異性である私に気を使ってくれるからひどく心地が良い。それが皆に対する怠惰な甘えと知っていても、普段の磨り減らした神経を少しずつ修復していくのに丁度良かった。

でも正直黒尾さんの隣を歩くのはちょっと億劫。同学年はまだしも、三年の先輩がたは生意気とでも言いたげな目で見てくることがある。この御時世真っ向から文句や脅しを言うような先輩はいらっしゃらないが、私が通りすがるときあからさまにこっちを見てくすくす笑ったりしてくる人が何人か。それに付き合うのも癪なので無視しているけれど。


「リエーフのことか」
「黒尾さんはどう思います?」
「プレー自体は取り戻して来てるがどうにもな……」


プレーができるとかできないとか、きっとそういう問題では無いのだ。黒尾さんもそのことを言いたいのか言葉に詰まる。私たちが過ごしてきたはずの時間はどこで清算されるのだろう。ぽっかり空いた、私たちと、何よりリエーフ自身の胸の穴は何によって埋められるのだろう。


「どうすれば記憶が戻るんでしょうね」
「……記憶を失ったままのほうが都合いいのかと思ってたわ」


 私はそのとき、確かにかちあった視線が同情を含むのに気がついてしまって心底気分が悪くなった。黒尾さんは知っている。明確なアンサーは有らずとも、私とリエーフの関係についてぼんやりと気がついている。なんとなく喉が鉛のように重くなって、沸き上がるすっぱい気持ちをまた笑顔でかき消した。

ひどい人だ、黒尾さん。あなた、気の使える人だからそんなこと言わなくて良かったし言わない選択ができたし言うべきでないとも自分で思ったんでしょう。でも私を少し問い詰めたくなったから、空気を悪くすることさえ承知で聞いてきた。私は笑います。つまらないから。


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