三流悲劇に喝采を!【灰羽リエーフ】

□空虚を食べる
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 その日はリエーフのことばかり考えて過ごしたていた。事故が起きた翌々日なんかよりは、遅れてやっと理解したのか冷静さを取り戻したのか、数日経ってしまった後のほうが現実味に溢れていた。でも教室で暗い顔をするのは気が引けて体裁を保つ。なるだけいつも通りを装った。話したところで本質的な理解は得られないと思ったから。

誰かがジョークを言えばわざとらしくないように手を叩いて笑う。変な空気になりそうだったら気の利いた一声をかける。雰囲気が飽和状態になって、そうしたら私はむねの底が潤っていく気がする。

私はうまくやれているでしょう?気のたった友人の肩を撫でると、不意に顔を起こした孤爪と目が合ったので心中言ってやる。多分孤爪はこういう女が嫌いだ。というよりは、多分私のことが嫌いだ。何の縁だか二年間同じクラスでやってきて、話すこともあるにはあるけれどお互い持つポリシーは違っている。


「なに見てんのー?」
「なに……なんだっけ、あー、そうだ、孤爪? ……仲良かったっけ?」
「ううん! 偶然目が合った」


 あんま見てやんなよ。惚れられちゃうじゃん。茶化され小突かれてわらう。部活の用件以外は教室内でてんで話さない私たち。もうなんか今はほっといてほしいな。薄っぺらに笑いながら、ひとつの偽りもなく笑うリエーフを思い出していた。つまらないな。なんとなく。

会話が頭に入ってこない。正確に言うなら、入るのは情報だけが、機械的に。それだけの処理をした頭は感情まで追い付かせることができないようで"正解"の反応をこれまた機械的に返す。多分こういうのをつまらないって言う。でも、こっちのほうが楽だ。でも、こっちは空虚だ。

 孤爪。お前の気持ちはなんとなく分かるよ。でも私は私みたいな女が好きだよ。慈悲ぶかくて、ユーモアがあって、空気の調和をとる女。でも胸のそこに吹き付けるむなしい風の正体を突きつけられてしまえば、私もある意味では私のことが嫌いだよ。


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