三流悲劇に喝采を!【灰羽リエーフ】

□おまえは誰だと叫ぶ声
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 空中でバランスを崩し頭から落ちたリエーフ。意識の戻らない様子に体育館中がとても重く、切羽詰まった雰囲気になったのをよく覚えている。リエーフが救急車で搬送されてからは全員とても部活どころじゃなくなっていた。それで翌日意識が戻ったと聞いて来てみればこの事態。

幸い脳にも命にも影響がない脳震盪だったのに誰もが安堵したのだが、これは何だ?何が起きているんだ?……大人数で押し掛けるのも他の患者に迷惑をかけるだろうととりあえず私たちだけで見舞いにきたのに。あろうことかリエーフは記憶を失っている。


「クロ、こんなことって」
「どーなってんだこりゃ……」


リエーフは黒尾さんのことも孤爪のことも分からなかった。他の部員のことも尋ねてみたけれどやはり分からないと言うだけ。ただ自身がバレー部に所属していることは覚えているようだった。学校への通学路も教室も自分の席の場所も覚えているのに周りの人間だけが分からないらしい。

 なんだかその事実がかなしいものに思えて、リエーフの手が頬に当てられたまま彼を見つめ続ける。彼も同じ。私の頬を片手で包みながらぽかんとした顔で私を見つめ続けている。外からやってきた私の頬は、陶器のように冷えていた。

笑えなかった。黒尾さんも神妙な顔つきで冷や汗が伝っている。明日には学校へ戻れるらしい。笑えなかった。バレーはやれるのだろうか。他の人はどう思うだろう?笑えなかった。


「はいそこイチャイチャしなーい」
「この人マネージャーですか?」
「そうだよ」
「へー、かわいい!」


 直球に褒められて多少狼狽えたけれど、前にもリエーフがそう言ってくれたのを思い出してなんだか心の居心地が悪いような気分だった。


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