book -long-

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急にリーガから「話がしたい」とメッセージが送られてきた。

今日の午後、ネズがダッシュで家に帰ったから、大方こってりしぼられた愚痴を言いにきたんだろう。

そう思って待ち合わせ場所に行くと、ベンチに座ったリーガがオレをじっとりと睨んでいた。

……このジト目。超見覚えある顔だな。



「キバナさん、アンタ兄貴にオレのことちくりやがったな…何してくれてんですか」


「おー…そうやって敬語が崩れるとホントそっくりだな。オレさまびっくり」


「少しは悪びれやがれ……いや、悪びれてください」


「だってオマエがネズの弟って知らなかったし…。

まあいいだろ?
こうやって出てこられたってことはコンテストに反対されなかったんだから。

まあ、そもそもネズの奴ならそんなことしねえよ」


それにほら、オレさまだって会議の後ネズに詰め寄られて大変だったしな。
お互い様ってやつ?


…つーかこっちはオマエの兄貴と大体週一ペースであってんだぞ?

むしろよくバレないと思ったな。
いや、気づかなかったんだけど。


「いや良くねぇですよ!
なんか急に抱きしめてくるし、自分のことダメな兄貴とか言って勝手に弱気になるし…本ッ当めんどくさい!」


「なんて返した?」


「…仕方ないから、ダメな兄貴って思ったことは一度もないとは伝えときました」


ほーら見ろ、超なかよしじゃん。
もともともオマエ、拗らせてるだけで兄貴大好きだもんな。可愛い奴め。


「じゃあオレのおかげで仲直りできたってことで。
オレさま超お手柄ー」


「……ホント調子いい奴ですね」



しかしこうやって怒らせることないから気づかなかったが、怒った口調が完全にネズなのな。マジでそっくり。


ポケスタで一発で当てられるくらい、よく見なくても顔立ちが近い……
ん?もしかしてオレさま、けっこう鈍いのか?


……ああ、これこれ。ポケスタ。


【端に映ってる人、ネズさんですか?小さくて分からないけど…ヘアカラーかえました?】

【左にいる人はネズさん?
若干幼い気がするから弟?】

【ネズの隠し子みたいな奴がいる。女の子?】


……いやー、見てるやつは見てるんだな。すげーな。
あと隠し子はちょっと面白いわ。
スクショしてネズに送ってやろ。


「……って、それ!!!ポケスタ!」


「ポケスタ?」


「そう!今まさにいじってるポケスタ!!
オレ映り込んでるんですけど!?
消してくださいよスタンプとかで!!」


「あーそうそう。
あれすっげえ伸びてんのなー!」


「キバナさんのネットリテラシーどうなってんですか?だから炎上するんですよ。

あとこの写真、遠近法でキバナさんの肩に乗ってる妖精みたいになってんですけど」


「アブリボン的な?ウケるな」


「全然ウケねえですよ…もともとこれが原因で兄貴にばれたんですから。

あとさっきからオレのポケスタにコメントいっぱい来て困ってるんですよ!」


ピコピコなる通知に、リーガのスマホロトムは目を回していた。

見せられた画面にはずらっとコメントが並んでいる。


【めっちゃイケメンですよね!
キバナさんみたいに自撮りは挙げないんですか?】

【キバナさんのポケスタでお顔みました♡
ネズさんに似てますね!
もしかして兄弟?】

【この人ネズの弟かなんか?
もはや遺伝子レベルで似てて怖いんだけど…】

【マリィちゃんとネズを足して2で割った顔してる】



「お、よかったな。イケメンだってよ!」


「だめだポジティブすぎる…

大体何だよこれ…当たり前だろ遺伝子同じなんだから!!

あと兄貴とマリィで2で割ったんじゃなくて父母足して2で割ってんだよこっちは!!」


そういえばコイツ、ポケスタは顔出ししてなかったんだっけ?


ああそうか…向こうの方じゃコンテストに出てて、雑誌やテレビ中継にも出てるけど…こっちじゃやってないのか。



「ま、オレさま有名人だからな!
いやこんなに影響力あるとは思わなかった。

なんか検索したらポケッタートレンドなってるんだな」


「……は?
おいちょっと貸してください」




***



キバナさんが見せてきた画面には、でかでかと太字で見出しが書かれていた。


【ネズ似の美少年が登場!
ポケモンコンテストってなに?】


「オレが何ってききたい…」


読みはじめの一文は、


【事の発端は、ナックルシティジムリーダーのキバナさんのポケスタに映り込んだ1枚の写真】


ああ…そのとおりで。いやもう大正解。
この写真のせいな…。



「っはあぁぁ……」
 

……終わった。

身内のことを1ミリも出さずにやってきたのが、このネットリテラシーの欠落した大きめの短パン小僧のせいで、全てが水泡に期した…。

思わず頭を抱えるってこういうことを言うんだな。本当に抱えちゃったもん。




まとめサイトにはポケモンコンテストについて簡単な概要があって、
そのあとでオレの写真、経歴、コンテストやテレビ出演の時の様子が貼られていた。


オレはキバナさんと違って、ポケスタに自撮りは一切あげない。
だから多分ここに出た名前からポケスタについた人がほとんどなんだろう。



いや、ポケモンコンテストが注目されたのは嬉しい。ガラルでも広まればいいと思うし。


けど…なんて言えばいいんだ?
ネットって…いや、科学の力ってすげー……だ。


まとめサイト作ったのは…多分シンオウ地方のファンの人だ。

オレはあっちで放送してるテレビ番組にしか出てないし、雑誌もコンテストの専門誌だからガラルまでは入荷しない。


……裏を返せばキバナさんのインスタを見ている人は向こうにもいるってことか。なるほど、たしかに有名人だ。



「……オレ、これからキバナさんのこと、短パン小僧と同じくらいだと思っておきます。
そのぐらいのネットリテラシーってことで」


「マジかよ?スクールガールぐらいにしておいてくれよ」


「…そこはジムリーダーでいてくださいよ。ガールじゃねぇですし」


まとめサイトにぶら下がったリプライの中には、よくオレのポケスタにコメントをくれる人もいた。コンテストに来てくれた人も多くて、サインに書いた覚えがある名前もあった。

試合を見た感想とか、ずっと推してる!とか。

そのあたりは正直すごくうれしい。


が、その下にオレと兄貴とマリィの写真を貼って比較画像作ってる奴がいてぞっとした。
こっっわ!!ネットこっわ!!!



「まあいいじゃん?
炎上したわけじゃねえし、アンチもそんなにいねぇし。
オレさまダンデに負けた時とかアンチやべぇからな!」


「反省してないですよね、これは…」


プルルルルルル…


頭の後ろで手を組んで笑うキバナさんをぶっ飛ばしてやろうとした瞬間、電話がなった。


「はい」

「ポケモンコンテスト事務局です。
いつもお世話になっております」

「リーガです。
こちらこそ、いつもありがとうございます」


電話の相手は、いつもコンテストの手配をしてくれる事務の人だった。

オレがコンテストを始めてから有名になるまでずっと知ってる、きれいなお姉さん。
スタッフの中でも少し年上なのか、いつも落ち着いていて、出始めのころはいつもトラブルに対応してくれた。


「リーガさん、もうSNS見られました?
大人気ですね…!」

「今発見して驚いています…科学の力ってすげー、ですよ」

「実はさきほどガラルTVから電話があって…

こちらでは対応できないので、どうしましょうか?
リーガさんがよければ、先方に連絡先をお伝えして、直接お問い合わせいただく形にしようかと思うのですが…」



「え゛………」


そうだ。事務局はオレのマネージャーでも何でもないし、迷惑はかけられない。

……けど、個人の連絡先を教えるのもなあ…どうしよう……。


「えーーーっと…すみません、こっちからかけなおします!!

そのテレビの連絡先、送っていただいてもいいですか…?」

「わかりました。転送しておきますね!」

「お手数かけます…!よろしくお願いします…!」


電話が切れたのを確認した瞬間、一気に力が抜ける。

「はぁぁ……」  

疲れた…何だこれ…!?
何が起きてんの…?


「いいんじゃねぇの?
対応としては大正解だな!
さすがミュージシャンの弟」


「……こういうやりとりはどうしてるんですか有名人さんは」


「ジムを通してもらってるからそこんとこは安心。
それこそ兄貴に聞いたらどうだ?

……つーかジムに問い合わせは入ってないのか?」


「はっ…!!!」


もしかすると今エール団が電話対応に追われてるかも…!!


「すぐ戻る!!!!!」


「おう、じゃあなー!」



……結局キバナさんは最後まで悪びれることはなかった。
ええ、分かってましたよ。


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