callーagainー
□callーagainー
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「うわ、あれ、どうしよう。なんか違う」
私は手に持っていた生クリームを掲げて首を傾げる。
ジェシーもワタリさんも帰宅した夜、夕飯を食べ終えた頃、エルに夜食を作っていた。
普通の人間なら夕飯後に甘味など太る原因だから食べないのだろうけど、彼は別だ。いつでも甘いものを欲している。これでも取る量は昔に比べれば減ったのだから驚きだ。
朝大量に焼いたブラウニーが残っていた。そこでふと、そういえば前エルと約束したのを思い出した。
パフェを作るねって、言ったんだった。
約束したあとワタリさんにパフェ用グラスを用意して貰ったと言うのにすっかり忘れていたのだ。
私は思い立ってエルがお風呂に入ってる間に飾り付けをしようと準備した。
ブラウニーがあるんだ、チョコレートパフェだよね。
一番下にはコーンフレークを入れて生クリームを入れたあとブラウニーを切って入れた。カットした苺も入れてみる。
そこまではとてもいい感じだった。けれどもラスト、一番目につく上部に取り掛かると私の不器用さが出てきた。
生クリームにチョコレートシロップ、ブラウニー、戸棚にあったポッキーとクッキー、これを適当に積み重ねるだけなのにどうしたのかな、なんだかパフェが斜めに見える。ピサの斜塔ですか?
うーんと唸りながらあっちを修正、こっちを修正してる間にとんでもなくボリューミーなパフェと変貌を遂げた。勿論斜傾は直ってない。
「あれ…こんなはずでは。」
「どんなはずでしたか」
「可愛らしくてキラキラしたお洒落パフェのつも…うわっ!エルいつのまに!」
背後から声が聞こえて仰け反る。髪を濡らしたエルが私を覗き込んでいた。
私の手元を見て、瞬時に彼はキラキラと目を輝かせる。
「パフェですか」
「う、うん、前作るって言ったのにやってなかったから」
「最高です光さん、逆にバランス力がなければこんなパフェしあがりませんよ」
「遠回しに斜めだってディスるのやめてもらっていいですか」
そこまでいって、あ!チョコアイスを忘れてた!と思い出し慌てて冷凍庫から取り出す。業務用のアイスの箱とディッシャーを取り出す。
エルはさすがに少し後退した。
「ここにアイスを乗せるつもりですか」
「だってパフェにはアイスがないと!」
「今ですら奇跡のバランスを取ってるように思えますが」
「ほらここ!ここなら多分乗る!」
私はそう断言して、チョコレートのアイスをアイスクリームディッシャーですくった。こういうのは思い切りが大事だ、中途半端に手を出すとダメになる。一気に押し込むんだ!
そしてさっとパフェの端の方に押し込んで手を引く。
するとなぜか、斜めになっていたパフェは真っ直ぐ上を向いたのである。
「わ!ほら、エル!真っ直ぐになりました!」
私が笑顔で言うと、隣のエルは珍しく小さく吹き出してわらった。少しだけ肩を震わせている。
「さすがです。光さん」
「え、ええ?」
「アイスを突っ込む時の思い切りのよさ、そのあとのまさかの奇跡で斜傾が改善されるなど。私の計算外です」
「た、たまたまだけど」
エルは優しく口角を上げたまま私を見る。濡れた髪が頬に張り付いて、どことなく色っぽかった。
「あなたといると飽きません」
そう一言言って、軽く私にキスをする。
水滴を含んだ髪が頬を撫でた。
「エル、冷たいよ」
「ああ、すみません」
「まず拭かないと。はい、エルは溶けないうちに食べてね」
私はパフェ用のスプーンを取り出してエルに手渡す。
彼はスプーンを持ったまま困ったように眉を潜めた。
「これは…さすがに運べませんね」
「あは!確かに!立ち食いだね」
「斬新です。」
エルはそう言いながら恐る恐るスプーンで生クリームを掬った。そんな彼を横目で見ながら、私はタオルを取りに行く。
エルの背後に回れば、彼の白い服の首回りはすでにかなり濡れている。いつも思うけど気持ち悪くないの?軽く拭けばこんなにならないのに。
普段通りエルの髪を拭こうとして、彼との身長差を再確認する。いつもはソファに座ったエルを背後から拭いてたから分からなかった。
私はダイニング用の椅子を引きずりエルの背後に置く。そこに立ち上がって、彼の髪をタオルで包んだ。
「これまた斬新です、そんな高いところから光さんに見下されるなど」
パフェを倒さないよう最新の注意を払いつつエルが言う。
「ふふ、確かに。だってエル身長高くて腕が疲れちゃうから」
「知っていますか。あなたに髪を拭かれて乾かしてもらう時間が、私の至福の時ベストスリーに入るのです」
「え?そうなの?」
「ええ、この時間かあるから全自動ヒューマンウォッシャーを使わずにいるのです」
「ふふ、じゃ、そのベストスリー他の項目は?」
「あなたがキッチンに立って料理を作る様子を見ている時、夜二人で並んで寝る時、隣でホラー小説を読んで楽しそうにしてる時、朝光さんの寝起きの顔を見れる時、あとやはり夜の営」
「エル、スリーの意味わかってますよね?」
「困りました。いざ挙げてみれば3つどころですみませんでした。どれも甲乙つけがたい」
世界の名探偵とは思えないほどなんだかお馬鹿な会話に、私は大きく声を上げて笑う。
もう、出会った頃のエルに見せてあげたい。
無愛想で無表情だったあのエルはどこに行ったんだろう。