此岸と彼岸のあれこれ

□if 純粋無垢
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「お前、伊邪那美命から聞いてないんだろ。眷属の契約は一度きり。悪いけど、解消なんて僕自身でもできないんだ」

だって対価は彼女自身だから。一人の人間が神に愛でられるのに対価にできるのは身をささげるくらい。それでも足りないから神さまは愛でる子を自分で選びとる。

買ってうれしいはないちもんめ。あの子が欲しい。
選べるのは遊びをしている子の中からだけ。欲しいあの子が遊びに参加していないならその子は選べない。だってそこに合意はないから。遊びの範疇を越えてしまうから。呪いを生むから。
それが神々の中の数少ない決め事の一つ。

白澤は人ごとのように言う。悪びれもしない。むしろそれがなに?とでもいいたげに鬼灯に笑いかける。

「......全部知った上で私に契約の手伝いをさせましたね」

地を這う低さの鬼灯の声。白澤はまた笑う。

「黒澤ねぇ。片割れ扱いされてそれはそれは迷惑だったよ。面倒事ばかり起こす。神々に疎まれるやつだった。けどこの話に関してはすごく共感できる。雪ちゃんの魂は絶品だったろうね。彼女に成る前は魂の位の高い巫女のものだったのかも。あいつのことだ。身体ごと食い荒らしたかったろうに。消されて残念、ざまあみろ」


黒澤と雪の契約が合意のもとだったのか白澤にはわからない。他の神の供物を引き抜いた罪、あろうことかそのまま眷属の契約をした罪。黒澤をさんざんなじっていた中に不死の神は誰もいなかった。世界が終わるまで孤独な苦しみなど有限の時を過ごす神にはわかるまい。片割れの気持ちは最後までわからないままだったがこの思いだけは分かち合うものだと信じている。はないちもんめに参加すら許されない自分たちにこの決まりごとは酷だった。自分のような人好きのさみしがりには特に。

選ぶこともできないのだから引き抜いてしまってもいいだろ。
大陸に連れ戻されたとき片割れはきっとそんな暴論を言うものだと思っていた。そう弁解してくれるのを待っていた。天帝の決め事は絶対。それでも代わりに文句を言ってほしかった。あの傍若無人の片割れにならそれができた。だのにあいつは何も言わない。あれだけいつも好き勝手暴れまわるのにあの時だけはおとなしく鎖につながれていた。消滅を神々で唱えたときほんの少し朗らかに笑って満足そうに消えたのだ。絶望した。

黒澤の記憶が消えた雪ちゃんを自分のもとに置くのは簡単だった。
僕より先に死ぬことのない女の子に笑いかけられて僕はその腕にどれだけ甘えていいのか分からなくなってしまった。

何をしたか?あんなに怯えていたからね。でも根底が愛おしくて近くにいたかったって気持ちだけは疑わないでね。僕はずっとそうしてめいっぱい大事にしたつもりだよ。
僕に怯えたままだと辛いだろうから契約の時一緒に記憶をいじった。一緒に暮らしてた時僕を拒んで泣いていた記憶はすっかり消して楽しい記憶だけが雪ちゃんの中にある。これで僕たちの間には何もなかったことになる。瑞兆たちは覚えているだろうけどあいつらにはどうでもいいことだろう。

黒澤からは怪我から身を守る丈夫な体を。
僕からは知識と吉兆と慈しみを。

また雪ちゃんは笑っていてくれるかな。今度は間違えないように。


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