此岸と彼岸のあれこれ

□二人のお布団
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 仕事部屋を抜けて法廷。亡者の入ってくる門の方、扉はしっかり閉じられていた。法廷を出て長い長い廊下を進む。ここまで誰にも会わなかった。終業時刻はとうに過ぎ、とっくに日付の変わった廊下に自分の草履の音が一つ。

(この時間まで他の獄卒が残業とあれば見過ごせませんが)

自室が見えてくる。扉を静かに開けるとその先にベッド。小さくふくらみがある。数日前まで扉を開けると雪が起きて待っていた。大抵膝に本を乗せていた。

おかえりなさい。

先に寝ているよう頼んだ。自分の遅い就寝時刻に合わせる必要はないし早々起きなくてもいい。大体こんな深夜まで連日でやってるのは自分がいきなり有給をとった一週間分の残りがあるからだ。自分が直接確認しなくてはならない分。それ以外は代理の篁さんが済ませてくれている。常務の仕事量に戻ればもう少し早く部屋へ帰れる。

上の黒の和服を脱いで布団に広げる。布団を捲ると雪は自分に背を向けてまるくなっていた。まるで獣のような眠り方。身体を小さく折って暖を逃さないように。寒さに耐えるように。

「.........」

既視感は、丁の頃のものだろう。

(寒くないですよ)

長らく1人で山にいたせいかかすかな音で目を覚ましてしまう。一度寝過しかけて布団をバサッとやった日には雪は寝起きらしからぬ瞳孔の開ききった状態でこっちに身構えた。山での生活がうかがえる。

「......鬼灯?入らないのですか」

いつから起きていたのか、雪が話しかけてきた。自分も布団に入った。

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」

どちらともなく言う。雪は身体をまるめる。  
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