此岸と彼岸のあれこれ

□if 地獄でずっと過ごした先
1ページ/2ページ


(雪と鬼灯が何気なく触れ合ったところから始まります。)




電気と呼ぶよりそれは衝撃に近かった。途端に体に嫌なものが駆け巡る。感覚だが確信してものすごく悪いモノ。くらくらする。力が抜けてしまい膝をつく。身体が、いや鬼火が熱い。

「ぇ、ぐ」

こみ上げてきたものを吐き出した。床に落ちた黒いべとりとしたもの。これは血か?口の中が気持ち悪い。頭も追いつかない。
顔をあげると呆然と立ち尽くす雪。着物の裾を握りしめている。一緒に朝飯を食べに行こうとしたところだった。私は雪の手を引こうとして。

「鬼灯様、烏天狗を呼びます!」
「彼女は危険です。ここに居ては被害が」

「お黙りなさい」

異常を察した近くの獄卒2人がやって来て、言葉に口を閉じる。待ってほしい。私もまだ整理できていない。

「......至急白澤さんを呼んでください。雪の力が暴走していると伝えて。」

2人は走っていった。
身体に意識を集中すると中の鬼火たちは入り込んだ“何か”に抵抗しているようだった。

(穢れか)

あれが言っていた穢れ。雪の身体に溜まっていたのだ。雪自身もコントロールできていない。
気を抜くと意識が持っていかれそうだった。思っていたより酷い。

「雪」

目の前の雪は体を強張らせる。ひどく動揺しているようだった。体をずって近づこうとするとすぐさま先ほどの倍ほど離れていってしまった。胸の前で両手を固く握りしゃがみこむ。

「近づかないで。私、鬼灯を傷つけたくない。お願いします。
ごめんなさい、ごめんなさい...」

わかりました。だからそれ以上は離れないでください。手が届かなくなってしまう。
朝の廊下のど真ん中。獄卒たちでおのずと人集りができてしまうだろう。隅にできるだけ寄った方が良い。

「......!」

雪に声をかけようとした。突然鋭い痛みが体を突き抜け、呼吸ができなくなる。言いたいことも思うこともなにも考えられなくなった。視界が狭まる。瞼が重い。
騒いでいた鬼火が腹の底で静まりかえっていいく。それはもう気味が悪いほどに。

(死ぬのだろうか)






「こいつはうちで治療するから。この子も連れてく。閻魔殿の外まで道開けといてもらえるかな」

注文をつけると獄卒たちはさっと分担してその場から立ち去っていった。残りの獄卒たちの視線はさておき。いきなり呼ばれて花街でむくれたがなるほど、頃合いだったようだ。
しゃがんで額の目を開く。足元には最強の鬼神がぐたりと横たわっていた。身体の中の鬼火は死にかけている。穢れにのまれるのに歯止めをかけてくれたんだろう。

(普通死んでておかしくないけど)

鬼火が3つも居てやっと命を繋いでる。運が良かった。

「白澤様、」

鬼灯をなんとか背負うと雪ちゃんが話しかけてきた。距離が遠い。怯えた目で縋るような目で僕を見る。握りしめた手には薄く赤い線。

(跡になっちゃうよ)

わけもわからず自分の大事な友人を殺しかけたんだから当然かな。

「うん。大丈夫、こいつはなんとかするよ。
一緒においで。僕には効かないから大丈夫。
桃源郷に帰るよ。いいね?」

「はい」

雪ちゃんはそばについて割烹着の裾をにぎる。俯いた姿は罪人のようだった。桃源郷に行ったらもう軽々しく地獄(ここ)には来れない。雪ちゃんは言葉の意味をよくわかっていた。元から雪ちゃんの居場所はこちらしかないのだから。
僕と居ないと危ないって身を持ってわかったでしょ。

(誰も殺さなくてよかったね)
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ