此岸と彼岸のあれこれ

□食堂初日での一件
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昼時。
鬼灯様が小さな子どもと一緒に食堂に現れた。顔つきは似てないしご結婚はされてなかったはず。座敷わらしのような妖怪だろうか?どちらかといえば閻魔大王のお孫さまのような、普通の子どもに見える。
俺は海老天にかぶりついた。阿鼻地獄ではまた川が氾濫したのだ。俺含め阿鼻の獄卒たちは片付けに追われているし、今だって交代で飯を食いにきてる。すげぇ腹減った。

(あーうめぇ)

この騒ぎで阿鼻(うち)から亡者が逃げでもしたら面倒だ。早く戻んないと。
かと言いつつ身体午前の復旧作業で疲れて果てていて正直今は動きたくない。天丼を食いつつ子どもの方を見た。閻魔大王の横に座ったようだ。鬼灯様は見当たらない。今日は篁さんが補佐をしていたから休みなのだろう。

(鬼灯様が休みとか本当珍しいよなぁ)

「いきなりたくさんは食べれないでしょ?これくらいなら大丈夫かな。」

閻魔大王が子どもの前に小ぶりの茶碗を置いた。にこにこと子どもに笑いかけている。自分の孫を相手するのと同じ感覚なのだろう。楽しそうだった。あそこだけ和やかな空気を感じる。子どもが茶碗に手を伸ばす。

(うん、あれくらいなら食べれそうだ)

「いいえ」

子どもの前から茶碗が消えた。子どもの隣、鬼灯様は自分の昼食のプレートを机において座るとスプーンを片手にお碗の中身を半分以上出してしまった。

「いままで木の実くらいしか食べていないでしょう。私たちからすればほんのすこしでも、雪さんには相当多いはずです」


「さ、お食べなさい」

鬼灯様がスプーンを雪さんの口元に近づける。違和感が激しい。あの鬼灯様が、自分のことは自分でするを指導する鬼灯様が。
子どもは差し出されたスプーンを見て困惑している。こてんと首をかしげる。その姿になんとなく鬼灯様の面影を感じる。もしかして鬼灯様の親戚の子?木の実しか食べてないってどんな家庭事情だ。

「ほら、雪さん。あーん」

鬼灯様が口を開く。母親が小さい我が子にするあれ。お母さんのまねしてお口開けてみよっか、だ。子どもはなにかためらったようだが倣ってそろそろ口を開いた。スプーンが口に入っていく。もぐもぐ。

「お味はどうですか。.....そうですか。よかったですね。
はい、あーん」

口の中の海老の尻尾までしっかり食べ終えてから周りに視線を向けて見る。
そこの女獄卒、顔を赤らめない。そこ、悶えない。はいそっち、逆にファースト奪われたとかわけのわからないこと言って泣くな。そもそもあーんにファーストもクソもあるのか。相手は子どもだぞ。

(鬼灯様は女性陣に人気だから。まぁ)

若いなぁと思いながら食べ終えて席を立つ。鬼灯様は元々おかんなところが垣間見えてたし。俺も早く仕事終わらしてうちの娘と戯れたい。あわよくば嫁にあーんしてもらおう。
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