此岸と彼岸のあれこれ

□ブッ飛んだ獄卒(候補)
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今日は趣向を変えてみようと指一本一本に釘を打ち込むことにした。雪の元主人にはサービス、一指に2釘ずつ。

「あなたの元召使いが見つかりましたよ。覚えていますよね」

親指に2つ。爪が割れた。叫ぶ声には慣れ切ってしまって耳を左から右へ通り抜けた。

「あなたはよく雪をなぐってましたねぇ。まぁあのドジはどうしようもありませんから」

小指まで打ち込み終える。釘をたくさん飲ませて最後に心臓を一突き。それで身体は再生させられる。使った釘は血で汚れるし片付けが手間になる。まぁいいでしょう。
今は気分が良い。

「そういえば生贄を決める時は即決でしたね。酒に呑まれた話し合いなどただのどんちゃん騒ぎ。雪は要らない子でしたか。使えませんでしたか」

小釘を袋から一掴み。全員分は足りないかもしれない。だからって少量飲ませたところで。

「彼女は私が貰い受けます」

生前暖かい寝具を欲しがっていた。部屋の羽毛布団は暖かかったでしょう。黒い勾玉も。もう作ってある。仕上げをしなおしたらプレゼントしよう。お腹いっぱい飯が食べられるように。夜はぐっすり眠れる時間を。
いいなと見ているだけだった生活、こんなことできたらいいですねとおしゃべりしていたこと。

(今はもう好きに生きていいのですから)

元々雪は召使い仕事に向いていなかっただろう。採集や効能には詳しかったし扱いも慣れていた。あの頃村に医療要員があればそこで活躍しただろうに。
生贄に選ばれた時、私に下手くそに笑いかけながらさよならを言った。非難も逃げも騒ぎもしないで祭壇へ向かった。自分が実際その立場に立ったときそれがどれだけ難しいことかよくわかった。
雪は心は強いようだがもっと穏やかな場所で暮らすのが合っている気がする。

「さぁ飲んでください。まずはあなたから」

村人の口をこじ開け山盛りの釘を押し込んだ。
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