彼岸を満喫

□10 種明かし
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 イザナミは御殿がリフォームされてるのを眺めていた。柱には縛られぐったりした顔の青い亡者たち。もう見慣れてしまって柱の模様ぐらいにしか見えない。

「まだあれの恨みは晴れぬのか」

「ええ。
それにまだ全員ではありません。これだけ探しまわって見つからないんです。もう転生したのでしょうね」


忌々しい。
柱を指差すと横で同じように眺めていた鬼灯は金棒の先を地面に突き立てる。ガンッとなかなか大きな音がして少し地面が抉れた。加減した方だろう。柱に括りつけられた亡者が怯える。

「して誰を探しておるのじゃ?」

「前に話した生前の私の友人。
彼女の仕え先の女です。男はもうそこに。」

「毛皮の小さい童のか。
以前ここに連れてきていたじゃろう、魂のない存在」

「名前は雪です」

この無表情がわかりやすく感情的になっているのが面白い。以前鬼灯がぐったりした童を抱えてわが邸宅を訪れた。見覚えのあるめのこだった。友人だと言う。呪いの類いではないかとせっついて聞くのでただの風邪となだめたのだった。

「何処を探してもその欠片も居るまい。黒澤がその女と子どもを消したからの。
引継ぎの眷属先は白澤じゃろう?まだ良いのになってよかったの」

「待ってください。
消した?引継ぎとはどういうことです。雪が眷属になったのは白澤のところが初めてではないのですか」

「何を言うておるのじゃ。
永遠を生きる神々が人の眷属を持つなど禁忌。
あの傍若無人が禁忌を重ねなければ白澤もとばっちりをくらわず済んだというのに」

いや、白澤には美味しい話か。あやつは人好きの神ゆえ。


「前は誰に仕えていたのです」

「黒澤(こくたく)。
知識の神として吉兆の白澤と対の凶兆の神。
童も面倒なものに好かれたのう。好き勝手するだけして自分まで消されておって」

後始末を我らに全て任せおって。
過去の後始末を思い出しため息がでる。鬼灯は俯いていた。

「何じゃ。何も聞かされずにあの童は契約を結び直したとでもいうのか?」

返答のないことが答えだ。鬼灯は俯いたまま顔をあげない。あげられない。
イザナミは顔をしかめた。黒澤に続いて白澤までもが禁忌につながる決め事を破った。知れれば中国の神々の立場が揺らぐことだろう。
やったことはそこまでではない。白澤が最悪と言われた神の対であるからことが大きくなる。

ため息。

「白澤達不死の神に仕えると仕えたものには不死の呪いが刻まれる。
その様子じゃと騙されたのはおぬしもか」


鬼灯はじっと動かない。考えることに頭を費やしている。目に見えて動揺しているらしい鬼灯がイザナミの興味をひいた。

ただ瞬くことしかできない。沈黙の後に口を開いた。少し掠れていた。
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