彼岸を満喫

□6 はりつくもの
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(今日はしばらく休みでしょうか)



ベッドの壁側が私、鬼灯は部屋側。
布団というのはずいぶんあたたかくて感動してしまった。

初日の夜、先にベッドに入った私は思わず泣いてしまい机で何やら書き物をしていた鬼灯を驚かせてしまった。
雪はほんとにおもしろい人ですねぇと隣に座ると背中をさすってくれた。それからまた朝がきて、寝起きの幸福感に浸ってしばらく動けずにいると朝ごはんはいらないんですかと鬼灯が身支度しながら言うので慌てて甚平に着替える。
しばらくお香さんに着付けを習うことになって最近は着付けをどうにか自分でできるようになった。



背中が人肌で温かい。身じろごうとして身体が動かなかった。
仕えていた主人が違うから一緒に眠ることは今までなかったけれど寝相はあまり良くないのかもしれない。
なんとか身をよじってみると赤い布地が目の前に。


(今日は居てくれるのですね)


胸がゆっくりとふくらみ縮む。上を向くと穏やかな寝息が聞こえる。

鬼灯は私がきて数日は有給を取っていたそうだ。
有給が明けて一週間。怒涛の一週間だったのだろう。私が起きたらもういないし眠りにつく頃は帰って来ない。
最初の一二日は起きて待っていたのだけれど先に寝ていなさいと言われた。
それ以降部屋で鬼灯を見た覚えはほとんどなかった。

「......」

鬼灯の胸に額をこすりつけて、そのまま目を閉じてじっとする。
鬼灯の匂いが包んでくれてる。安堵感。同時に縋るような気持ちがどっと押し寄せてきてなんだか泣きそうになった。



座敷童の一子ちゃん二子ちゃんとはそれから遊び倒した。すごろくやオセロ、卓上の遊びからかくれんぼ鬼ごっこ、亡者を驚かせたり。
初めて遊びで転んだ。かくれんぼの隠れる緊張感は楽しかった。

ここのところ私の一週間の動きは飯を三食しっかり食べ日中は二人と、夜は部屋の本を読み漁ること。
読み飽きて廊下に出れば働いている獄卒の皆さんとすれ違う。中庭で座敷わらしの二人は鬼灯の育てている金魚草とたまに歌を歌っていた。そんな様子をぼうっと眺めていると胸がざわついた。
穀潰し、と侮蔑のまなざしをどこかに感じて怖くなる。



鬼灯の手が私の背中にまわる。抱き枕とでも勘違いしてるんでしょう。今はむしろありがたかった
とても落ち着く。息を吐くと涙腺がにじんだ。


(穀潰しは嫌)


白澤様のところに戻った方がいいのかもしれない。
先週別れたばかりだけれど以前のようにおいてくれるだろうか。薬草摘みと薬作りならまたお手伝いできる。
もうすっかり休ませてもらったのだから働きたい。


体を起こす。働き詰めの鬼灯の横で惰眠を貪るほど図太くはなれない。
リラックス効果のあるお茶でも淹れてあげたいのだけれど手持ちはない。


(やっぱり桃源郷に帰りたい。)




「どこにいくんです」

腕を退け、壁と鬼灯の間の細い隙間を後退していると今度は手首を掴まれた。起こしてしまったかな。

「洗面所に行ってきます。私はもう起きますから」

「離れないでください」

「ぇ」



少ししてまた寝息が聞こえてきた。寝言だろうか。鬼灯の手をはがす。後退を再開しベットを降りた。


洗面台には昨日用意してもらった台がある。文明の利器たちを使って身支度する。机の上にある替えの衣服をひっぱり下ろして着替える。

帯を締めているとかすかに扉の開く音がした。獄卒や鬼灯の友人ならノックするでしょう。まさか泥棒。


扉を開けたのは猿鳥犬。ここでは獣も働いている。


「あれ、君は?なんでここにいるの?」

白い犬が私に問う。うん、喋りもするのだった。

「ここに住まわせてもらっています、ええと、鬼灯の元同僚といいますか...」

「へぇ、小さいのに大変だね!君働いてたんだ!」


白い犬たちはそのまま部屋を物色しはじめた。ついには鬼灯の元に寄ってそのまま歌い始めた。なかよしか。
放っておこう。ご飯食べにいこうかな。



食堂に向かい握り飯をもらう。昼間の食堂は人が多い。空いたスペースを見つけたのでそこに座る。
握り飯を食べていると隣にペットフードが置かれる。お隣は獣の獄卒らしい。

「おねえさんさっきぶりだね!」

ぴょいと隣の椅子に飛び乗ったのはさっきの白犬。笑っているように舌を出して開いた口はよだれを垂らしている。あ、落ちた。

「はい。さっきぶりですね。食べないのですか?その、よだれが」

「俺ルリオたち待ってるから。
さっきまで鬼灯様とボール遊びしておなかすいちゃった。タマ取って来い!って。
閻魔さんの顔にめり込んでたよ。鬼灯様ってすごいよねぇ」


...鬼灯、そんな感じで大丈夫なのだろうか。あなた上司になんてことを。


「おねえさん子どもじゃないんだね。鬼灯様から聞いてびっくりしちゃった」

「ここでの常識のなさは子どもと変わりませんよ」

ペットフード2つを私の前の席に置き鬼灯が私の反対隣に座った。前の席には猿鳥が座る。


「おはようございます」

「おはようございます。昨日はお疲れでしたか」

「ええ徹夜がたまっていたので。今日はお休みをいただいてます。
これからシロさん達と天罰鍋を作りますが、雪も一緒にどうです」
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