彼岸を満喫

□5ひといき
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「それではお邪魔しました」

桃太郎さんと若干不機嫌そうな白澤様が帰りを見送ってくれた。帰り際、白澤様はもう一度私の首筋に触れていつでも遊びにおいでと言ってくれた。

「眷属だからってずっと一緒に居なくてもいいんだ。具合を悪くしたら早く訪ねてくるんだよ」




「白澤様は良い方ですね」

丁はふんっと鼻を鳴らした。

「あれらにされたことを踏まえて言うなら雪は相当ばかですよ」

「白澤様も神様ですけど神様違いでしょう。丁はなにをそんなに怒っているのです。いまばかって言いましたよね」

「丁ではありません。鬼灯と呼んでください」

「それは役職名なのですか。お香さんたち皆さん鬼灯様と呼んでましたけれど」

「生前と決別したかったので改名したんです。雪もしてみたらどうです」

今からさっきの建物、閻魔殿に帰るそうだ。

結局丁のところでお世話になることにした。ひさびさの会話のテンポが心地よい。さっき丁と言われるまで生前の記憶をすっかり忘れていた。なぜ今まで疑問に思わなかったのだろう。出会い頭から丁は一方的に私を知っていて今まで面倒を見てくれていたのだ。寝込んでいるときなにか薬茶のようなものを飲ませてもらった気がする。それは私の役割だったというのに。
身体も体格も大きくなってしっかりしている。それに額に角が生えていないか。犬歯が鋭かった。どう見ても人間離れしている。さっき鬼になりましたと言われたが正直訳がわからない。いろいろと聞きたいことがあり過ぎるので帰り道にできる限り聞いてみよう。




「雪は壁側にしましょう。寝相は悪い方ですか?」


所変わって閻魔殿。丁...鬼灯の自室。どうやら自分の部屋においてくれるらしい。
私が寝返りを打った時雪は小さいからはずみで落ちてしまうかも、なんて呟いている。
私が物のように軽いとでも思ってるんですか。


約束ごとは3つ。

外出時には必ず連絡を入れること。
部屋にいるときノックされても応じない、中に入れない。
むやみに白豚や危ない場所に近づかない



「身体こそ変わっていませんが私だって鬼灯と同い年なんです。子供扱いしていませんか。あと白豚ってなんです」

「白豚は極楽蜻蛉のあなたの神獣です。
報連相ですよ、常識です。雪は死後ずっと山や森にこもっていたのでしょう。ここじゃ赤子同然です。ここは地獄でこの建物は裁きの場所であり罪のある亡者が集まっているんです。もし取り押さえられてしまえばその身体じゃ抵抗できないでしょう。

あと、雪のその救いようのないドジをここでやるとすぐ死にます」

ホウレンソウ?そのあとまた自然にばかにされた気がするけれどここの危険性はよく分かった。
鬼灯が白澤様を嫌っていることも十分に。


「分かりました...ええっと、とりあえず部屋を見せてもらいますね」

鬼灯の部屋はわりと広い一人部屋。ここが洗面台、こっちが風呂とトイレ。洗面台は高いから何か台になるものを、と私は鬼灯に連れられ広い廊下に出た。鬼灯様、と大人数に呼ばれ慕われているようだが鬼灯は何の仕事をしているのだろうか。


小鬼が二人、恰幅のいい閻魔大王は仕事の休憩に入ると途端におっとりとやさしい雰囲気になる。いきなり天井から降りてきた座敷童のお嬢さんたちは私が驚いてびくりと肩を揺らすとじっと見つめてきた。何といおうか口ごもってしまい、とりあえず挨拶の言葉をかける。鬼灯がこれからここに住むんですよというと二人は少し黙ってから遊ぼうと誘ってくれた。



「元気そうで安心しました」

鬼灯にはもうちゃんと居場所がある。
私は今度こそ引きつらず鬼灯に笑いかけることができた。
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