彼岸を満喫

□11 子守歌
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「白澤様が配達した方が良い場所ですよここは」

「そうっスね。ほんと雪深いところだなぁ」

白澤様は飛べるのだから今からでも変わってほしい。御殿までの道を桃太郎さんと歩く。



配達先は八寒地獄の御殿。
雪で包まれたところと聞き見に行きたいねと二人で楽しみにしてた結果が今。
白銀の世界は誇張でもなくこういう景色をそのまま指した言葉だろう。思わず止まって見惚れてしまうくらい美しい。
ここに配属された獄卒たちが雪を退けてくれたのだろう、行き先への道はまだ歩きやすくなっていた。が、不慣れなもので小さい段差傾斜で転んでしまう。重ね着のせいで動きづらい。

「桃太郎さん、あそこ。亡者の氷漬け」

「あー...つくづく地獄行きじゃなくて良かったと思います」

上を見上げると大きく鋭い氷柱がずらりとならんでいた。落ちてきたらひとたまりもないだろう。
息をつく。さっきから息苦しい。マフラーを一つ解いて腰に結んだ。


「雪さん、ここ気をつけてください」

私があまりにも転ぶものだから桃太郎さんが前を歩いてくれている。ありがたい。

(熱いなぁ)

目の前が揺れている。
左側に氷の膜が見えた。真ん中だけぽっかりとくり抜かれたように空いている。釣りでもするのかな。洒落にならないがここで糸を垂らせば亡者が本当に釣れてしまいそうだ。


「ぁ」

足元が滑る。桃太郎さんが教えてくれていたのに、全く。
想像していた雪の感触は来なかった。どぷんと音がして体がこわばる。透明な水面が目の前で揺らいでいる。嘘。まさか落ちたのか。

急いで上がろうとして体は反対に沈んでいく。凍えそうなのに首筋が熱い。息がくるしい。
ああそうだ私は元から泳げないんだった。もがく。水底は深い。底の方に目をやって小さく肌色のものが蠢いでいた。

(亡者だ)

まずいと本気で思った。あれらに捕まったら終わる。手袋を外し上の服を1、2枚どうにか脱ぎ捨てて水面へともがく。
首筋が波打ってる。熱いを通り越して痛い。痛くてたまらない。

不意に何かが腹に絡みつく。腕だ。口からごぼりと泡がでていく。慌ててしまった。腕はびくともしない。諦めるわけにはいかない。私はそれの腹を殴り、腕が緩んだ感覚を最後に意識を失った。




「おーいシロー!」

「あ、桃太郎がいる!なんで?」

雪合戦後。
すさまじい戦いを終え獄卒たちが散り散りに持ち場へ帰っていく中桃太郎が御殿から現れる。

「薬の配達に来たんだ。
雪さんが池に落っこって、春一さんから今部屋を貸りてる」

「雪はどこに?」

「ここから少し行ったところの建物です。八寒の獄卒の方が急いで風呂場に連れて行ってくれたんですけど。
もう少ししたら白澤様が迎えに来てくれるみたいで」
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