もしもの話、すきまの話
□【亥】初めての年越し
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今日は12月31日、大晦日である。
夕方、居間でお茶を飲んでくつろいでいた篠だったが、台所から気合いを入れて年越し蕎麦の出汁をとっていた尊が、申し訳なさそうに顔を出してきた。
どうやら蕎麦を用意するのを忘れていたらしい。
そこに凪と天太がやってきて、最高級の蕎麦を買ってこいと騒ぎ立てた。
「やれやれ…」
大晦日で閉まっている店が多いというのに…。
重い腰を上げた篠は、鈴に東京の自宅へと転送してもらう。
因みに、この紫春神社の宮司が今は不在である為、初詣などは鈴が取り仕切り、主が手伝って簡単にしか行わないらしい。
まあ、田舎故に住む人も少なければ、宮司の不在も近隣住民は承知の上なので問題ないらしいが。
そういえば大晦日の今日も働いている名前が、先日、今年は速く帰れる!と喜んでいたな…
ついでに仕事終わりの名前を迎えに行こうと思い立ち、時間まで久しぶりの我が家を満喫することにした。
(尊には鈴から伝えて貰えば良いだろう…)
「はて…
もうこんな時間か」
ふと時計を見れば、いつの間にか結構な時間がたっていたらしく、
そろそろ名前を迎えに行かなければならない時間になっていた。
『はぁ…疲れた…』
「大晦日だというのに、難儀な事だな…」
『篠?!
いつの間に背後に…!!』
驚いた名前を見て満足した篠は、そのまま名前を連れて蕎麦を買いに行く。
途中、ついでにシャンパンを数本購入すれば、好きだね…と名前が呟いた。
「年に一度の特別な日だからな」
そんな日に、兄弟達と飲みながら語らえるのは素晴らしいことだ。
そう続ければ、名前はそうだね、と顔を綻ばせる。
「…うむ。悪くないな」
『え?』
「いや……何でもない」