もしもの話、すきまの話

□【戌】水風船
1ページ/5ページ



私、名前は本日、小春と干支の皆と一緒に京都の夏祭りに来ている。

毎年盛大に行われており、集客人数もさることながら、屋台の種類や会場の広さも目を見張る程の大きな祭りだ。


「人波にのまれてはぐれるでないぞ?」


そう言った篠に、『分かってるよ。大丈夫だって!』と言ったのは、つい5分程前の事だった…


「…」

『…』

「……
…阿保め…」

『申し訳ございません…!!』



はい。はぐれましたとも。

大丈夫と宣言した直後、人波にのまれた私は、咄嗟に傍にいた久遠の着物の袖を掴んでいた


ただでさえ、人混みの多さに来るのを渋っていた久遠

先程から深いため息をついている


「はぁ……」

『……
ご、ごめんね、久遠…』

「…?」

『私のせいで皆とはぐれちゃって…』

「…」


何も言わない久遠を不思議に思い、チラリとその顔を見れば、"何言ってんだ、こいつ"見たいな顔をしていた


『ちょ、本当、はぐれてごめんってば!!
そんな顔しな』
「俺がいつ、奴等とはぐれたことに不満を言った?」

『……え?
いや、だって凄く嫌そうな顔してるけど…』

「人混みが好きではないだけだ……
…だが……」


チラリと名前を見たが、すぐに顔を背けた久遠


「…お前と二人でまわれるなら…

……悪くない…」

『…!!』


小さく呟いたその言葉は、それでもしっかりと名前に届いており、反射的に俯いた名前の顔は赤く染まっていた


久遠は此方を見てはいない。
だが、辺りが薄暗くなっていて助かった…と、名前は安堵していた



 
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ