もしもの話、すきまの話
□【戌】水風船
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私、名前は本日、小春と干支の皆と一緒に京都の夏祭りに来ている。
毎年盛大に行われており、集客人数もさることながら、屋台の種類や会場の広さも目を見張る程の大きな祭りだ。
「人波にのまれてはぐれるでないぞ?」
そう言った篠に、『分かってるよ。大丈夫だって!』と言ったのは、つい5分程前の事だった…
「…」
『…』
「……
…阿保め…」
『申し訳ございません…!!』
はい。はぐれましたとも。
大丈夫と宣言した直後、人波にのまれた私は、咄嗟に傍にいた久遠の着物の袖を掴んでいた
ただでさえ、人混みの多さに来るのを渋っていた久遠
先程から深いため息をついている
「はぁ……」
『……
ご、ごめんね、久遠…』
「…?」
『私のせいで皆とはぐれちゃって…』
「…」
何も言わない久遠を不思議に思い、チラリとその顔を見れば、"何言ってんだ、こいつ"見たいな顔をしていた
『ちょ、本当、はぐれてごめんってば!!
そんな顔しな』
「俺がいつ、奴等とはぐれたことに不満を言った?」
『……え?
いや、だって凄く嫌そうな顔してるけど…』
「人混みが好きではないだけだ……
…だが……」
チラリと名前を見たが、すぐに顔を背けた久遠
「…お前と二人でまわれるなら…
……悪くない…」
『…!!』
小さく呟いたその言葉は、それでもしっかりと名前に届いており、反射的に俯いた名前の顔は赤く染まっていた
久遠は此方を見てはいない。
だが、辺りが薄暗くなっていて助かった…と、名前は安堵していた