干支の足跡
□5,息災だったか?
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カタカタ
カタカタ
パチン
『おわっ…た…』
エンターキーを押すとともに、開放感が押し寄せる。
茨城から東京に帰って来たばかりの名前は、たまっていた仕事を片付ける為に遅い時間まで残業をしていた。
「えっ、椿さん、もう終わったんですか?」
向かいに座っていた同僚が、パソコン越しに残念そうな声をあげた。
『うん。
これで明日は心置きなく休めるわ…』
「はあぁー、いいなぁ…。
私もこの発注が終わったら帰ろー…」
彼女も今回、茨城の応援に行っていたので仕事がたまっているのだろう。
若干うなだれながらも、すぐにパソコンに向き合ってキーボードを打つ。
「じゃあ、お疲れ様でしたー。今度飲みに行きましょうねぇー」
『そうですね。お疲れ様でした』
「絶対行かないやつじゃん…」
気の抜けた挨拶をした後、飲み干した缶コーヒーをゴミ箱に捨てその場を去る。
ギィィ…
従業員出入口の扉を閉め、空を見上げると、すでに暗闇につつまれ、星がキラキラと輝いていた。
ヒュウゥ…
『…
早く帰ろ…』
冷たい風が吹き、肌寒さを感じる。
歩き始めたのと同時に、近くの公園の方に、何やら人影が見えた。
『…?』
暗くてよく見えないが、あのシルエットには心当たりがあった。
駆け出した名前に向こうも気が付いたようで、此方に向かってくるのが分かる。